「日本人が海外へ行けない」を打ち破る シンガポール発LCCが仕掛ける“逆張り戦略”(1/2 ページ)
1ドル160円超の円安と燃油高により「海外旅行離れ」が進む日本市場。シンガポール航空傘下のLCC「スクート」が羽田・那覇線を相次ぎ新設する“逆張り攻勢”を見せている。なぜ円安下でも拡大を続けるのか。「若者・女性向け」を脱した中小企業などのビジネス需要獲得、最新規格「NDC」を活用したチャネル戦略、小型機投入による130都市網の構築など、安武秀敏・日本支社長に日本市場攻略の戦略を聞いた。
1ドル160円前後が定着した今、かつて「気軽なリフレッシュ」だった海外旅行は大半の日本人にとって「手が届かないぜいたく」になりつつある。そんな閉塞(へいそく)感すら漂う日本市場において、異彩を放つ“逆張り攻勢”を仕掛けるのがシンガポール航空(SIA)グループのLCC(格安航空会社)「スクート」(Scoot)だ。
シンガポール・チャンギ空港を拠点に、アジアや中近東、欧州、豪州で現在18カ国・地域、80都市以上に就航する。日本路線は、東京(羽田・成田)、大阪(関西)、札幌(新千歳)、沖縄(那覇)の5都市だ。
2025年12月の那覇線開設に続き、2026年3月には待望の東京(羽田)−シンガポール線へと進出。主要5都市ネットワークを拡充し、日本の消費者の視線を再び「世界」へと向かわせている。円安下でなぜこの決断ができたのか。
「市場が弱くなったから路線を削るのではありません。どこに販売機会があるのかを常に突き詰めるだけです」──。2025年9月に日本支社長に就任した安武秀敏氏は、そう言い切る。
「円安」「パスポート所有率18%」──日本人にとって、海外旅行が“手の届かないぜいたく”となる中、同社は国内でどう戦っていくのか。安武氏に、ターゲット層の拡大や、新規就航の追加で攻勢を見せる同社の戦略を聞いた。
市場が“弱っていても”路線は削らない 強気な姿勢を見せるワケ
――円安や燃油高から、日本の消費者がなかなか海外へ行けない状況です。そんな中、御社は2025年12月に那覇−シンガポール線、2026年3月に羽田−シンガポール線を新規就航しました。直近で、日本市場をどう見ていますか。新規就航を続ける狙いを教えてください。
日本市場は、確かに円安です。そんな中、多くの日本のお客さまが海外旅行に限らず、いろいろな場所へ行く選択肢を今もお持ちです。スクート自体は就航ネットワークについて「常に拡大していく機会を模索している会社」です。そのため、いわゆる“弱く”なったから路線を削っていこうといった思考よりも「どこに販売機会があるのか」「どこだったらスクートのリソースを最大化できるか」を、常に考えています。
新たな就航地を決める前提には、潜在性があることはもちろん、そこにマーケット(市場)があるのかを見極めなければなりません。実際、今どういったところに旅行するのか、どのルートで行くのか、目的はビジネスなのかレジャーなのか。個人と団体のどちらが多いのか、といったことを調査します。
例えば、沖縄線の場合。当社はシンガポール航空を含むSIAグループの企業で、スクートはそのグループ全体のネットワークを担っています。スクートからシンガポール航空への乗り継ぎ、また、シンガポールから出発する多くの便に接続でき、そこに需要があるのかまで含めて検討した上で、需要があると判断し、就航しました。
ちなみに、日本人の比率は、ルートによって異なります。東京線だと、やはり日本のお客さまが多めでインバウンドとほぼ半々です。一方、沖縄線や札幌線ではインバウンドが多い状況です。大阪線も、近くに京都などがあるのでインバウンドが多くなっています。
ターゲットは「若年層」だけではない
――スクートはシンガポール航空グループのLCCという位置付けです。日本市場を含めた利用客のターゲットはどこにあるのでしょうか。レジャーだけでなく、ビジネスでの利用もあり得るのでしょうか。
LCCであり、シンガポール航空のグループ会社です。そのシンガポール航空と比べ、かなり安価な運賃を設定しています。実際どのような方に利用いただきたいかというと、やはり旅行に対して積極的に考えている層です。それは必ずしも、若者など年齢や性別などで測るものではありません。むしろ海外が好きで、安い運賃の便があった場合に積極的に利用していこうという“感度”を重視しています。
それに加え、ビジネスでも利用する方はいます。ビジネス利用だと、フルサービスキャリア(FSC)を使うことが多いと思うのですが、例えば、海外の見本市に参加されるような、中小企業で海外進出を考えている方々にも利用いただいています。
――円安などで厳しい状況ではあるものの、ビジネス客を取り込めるチャンスでもあると捉えているのでしょうか。
「ビジネス客を狙いましょう」ということではありません。スクートとしてのプロダクト、スケジュール、そしてサービスを拡充していく中で、広くいろいろなニーズを持ったお客さまに利用いただける機会が広がっていくと思います。つまりレジャーに限定しているわけではなく、さまざまなニーズを持つお客さまにうまくリーチをし、利用いただければと考えています。
直販100%に固執しない 旅行会社・OTAと「タッグ」で挑む
――航空券を購入する“チャネル”に関して、お聞きします。航空券は「Trip.com」や「Expedia」といったOTAや旅行会社で買う人も多い一方、公式サイトでも販売しています。スクートとしてOTAや旅行会社は、どう位置付けていますか。
スクートの公式サイトではもちろん、OTAでも販売しています。当社の営業担当が、OTAだけでなく、既存の旅行会社と協力して顧客にリーチしています。協力しないとリーチできないマーケットも当然あります。それらに対して“協業”し、サポートしていただきながら、お客さまが求めている旅行商品や航空券の購入につなげることが重要です。
OTAに関しては、この1年で従来のシステムから航空業界の新流通規格である「NDC」(New Distribution Capability)への移行を完了し、提携する大手グローバルOTAでの導入率は100%に達しています。これにより、提携OTAのサイト上でも当社の公式サイトと全く同じ環境で、航空券だけでなく付加サービスも含めたスムーズな販売が可能になっています。
OTAがどこまでカバーするかは、各社の戦略もあります。ただその環境が整っているので、当社としても座席だけでなく、付加サービスなども今後提案できるようにするのに加え、旅行会社さんとの協力関係も築いていきたいと考えています。
――スクートにとって、OTAとは協力関係にあり、販売チャネルを広げる意味で、非常に役立っているということですね。
当社だけで100%売っていく戦略より、旅行会社にも売っていただく方が、チャネルが広がります。
例えば「スクートで行く〜の旅」という商品だと、当社の社名も出ます。それに航空券やホテルなど全て込みのプランでシンガポールへ行きたいという日本人の方々もたくさんいます。
そういった方々に当社の座席を提供するとなると「当社のWebサイトで航空券を買う方法がありますよ」と言っても、響かないわけです。そうすると、旅行会社さんで当社の座席を使って商品化し、販売いただきたいということになります。
また、旅行会社が実際はオンラインで販売しているので、オンライン購入者も多くなってきています。もちろん店頭でパンフレットをもらう方もいますが、販売チャネルをお客さまの側から見た際、旅行会社とOTAの境目もなくなってきているかなと感じます。
AI導入とデジタル人材 現場の「困りごと」をデジタルで解決
――ChatGPTなどの生成AIツールから航空券を予約できるような検索体験が広がるなど、マーケティング的に「AI」は無視できない存在になっています。
SIAグループ全体として「デジタル」は戦略の柱にしています。AI導入に関しては、ただ導入すれば会社の中でうまく使えるというわけでもないため、まずは「AIをしっかり運用できる人材」を獲得していかないといけません。その人材を獲得するために「当社で働きたい」「自分のスキルを生かせる会社」だということを訴求すべきと考えています。
デジタル化は、お客さまへのサービス向上や業務効率化(DX)をよりスムーズに進めるための強力な武器です。ただし、単にツールを導入すれば現場で使われるわけではありません。
大切なのは、現場の「困りごと」に対してデジタルをどう生かすか。現場とデジタル担当者がしっかり手を取り合える企業文化と環境を整えることです。そして「自分のスキルを発揮できる会社だ」と思ってもらえる魅力を発信しながら、優秀な人材を獲得していく。それほど当社の経営戦略において、デジタルの優先順位は高く設定されています。
スクートのデジタル化の取り組みとして「Marvie」という公式AIチャットボットを導入しています。お客さまからのテキストでの質問に答える機能です。最近は「WhatsApp」の音声メッセージにも対応しています。デジタル化によって、お客さまがより便利にスクートを利用していただける環境を整えています。
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