客離れを起こす“残念な値上げ”の特徴 物価高時代でも“買わせる”「値付け」の方程式: がっかりしないDX 小売業の新時代(3/3 ページ)
止まらない値上げ。小売業も値上げの見直しを迫られるが、原価に応じた一律値上げでは客足を遠ざけてしまうかもしれない。値上げ時代に求められる新しい価格戦略とはーー。
値上げは「商品」ではなく「3つの役割」で決める
小売業には、商品ごとに価格の役割を明確にする設計が必要です。
第1は、価格イメージを守る役割です。
牛乳、卵、パンなど、顧客が価格を覚えている商品が該当します。競合価格を確認し、値上げ幅を抑えます。ここで見るべき指標は、その商品の粗利益率ではありません。客数、来店頻度、そして顧客が「この店は高い」と感じていないかという価格イメージを重視します。
第2は、店内代替を促す役割です。
NB(ナショナルブランド)とPBの間で乗り換えが起きやすい商品が該当します。顧客が「買うこと自体をやめる」のではなく「同じ店の中で別の商品を選ぶ」ようにする役割です。
値上げによって顧客を店外へ追い出すのではなく、店内で代替してもらう設計です。PBも、単なる安価な代替品ではなく、顧客に価格と品質の選択肢を提供する手段として活用します。
評価指標は、単品の売り上げや利益ではなくカテゴリー粗利益です。あわせて、顧客が他店へ流出したのか、それともNBからPBへ移っただけなのかを確認する必要があります。
第3は、利益を確保する役割です。
独自商品や高付加価値商品が該当します。品質、使いやすさ、地域性、健康価値など、価格以外の選択理由を明示したうえで、必要な粗利益を取ります。評価指標は、SKU単位の粗利益額、リピート率、値引率です。
いずれの役割でも、値上げ前後の販売数量だけを比べてはいけません。見るべきなのは、単品の変化ではなく、店舗全体への影響です。粗利益額、カテゴリー内の代替、来店頻度、買上点数、客数まで追う必要があります。
価格設定の前提が変わるとき
前回書いた英ドラッグストア大手Superdrug Storesの事例のように、英国では通常価格と会員価格を併記する小売業が増えています。会員カードを提示する顧客だけが安く買えるため、小売業は顧客データを取得しながら価格を使い分けられます。
英国のように「誰にでも同じ価格で販売する」のではなく、継続的に利用してくれる顧客へ優遇価格を提示する仕組みは、今後日本でも広がる可能性があります。
もう一つ、価格設計の前提を変える動きがあります。
政府は8月5日の臨時閣議で、食料品の消費税率を2027年4月から2年間、8%から1%へ引き下げる方針を決定しました。秋に想定される臨時国会に法案提出し成立を目指しています。
値上げの主因は原材料、物流、資材、人件費です。そのため、消費税率が下がったとしても、小売業のコスト構造そのものが改善するわけではありません。
食料品小売の税率が下がる場合、全SKUの税込み価格を見直す必要があります。このタイミングで単純に価格を付け替えるのか、それとも商品ごとの役割を踏まえて価格戦略を組み直すのか──。ここで小売業の差が生まれます。
年間2万品目ペースで値上げが続く時代に、食品小売業が避けるべきなのは、全てを一律に上げることです。
重要なのは、価格を「原価に合わせて決める数字」と考えるのではなく「顧客の選択と店舗の利益を両立させるための設計」と捉えることです。
「なぜその価格にするのか」。これからの小売業はデータに基づいて価格を設計することが求められます。
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