「Netflix」「U-NEXT」を追う4位「ディズニープラス」 “会員数争い”ではない独自の勝ち筋:ディズニーの戦略に迫る(1/2 ページ)
国内SVOD市場でシェア4位(8.4%)のディズニープラスは、王者Netflixらとの会員数争いに終始せず、映画・パーク・物販・イベントを横断する「ディズニー経済圏」のハブとして動画配信を再定義している。IP軸でリアルとデジタルを回遊させ顧客生涯価値(LTV)を最大化する独自の戦略を展開。「THE SEVEN」や「TVING」との協業、他社バンドル展開など柔軟なパートナーシップで狙う持続的成長の全貌に迫る。
国内の定額制動画配信(SVOD)市場でシェア8.4%の4位──。GEM Partnersの調査(金額ベース)によると、首位Netflix(27.1%)やU-NEXT、Prime Videoといった上位陣の後塵を拝しているのがディズニープラスだ。
だが、ウォルト・ディズニー・カンパニーが描くビジョンは、他社との“会員数の奪い合い”とは異なる地点にある。他社が顧客獲得コストを削り合う中、同社が見据えるのは全く別のレースだ。
同社が目指すのは、ディズニープラスをサブスクリプション事業単体での売り上げで評価するのではなく、映画館やテーマパーク、グッズ、さらにはスポーツ配信までを横断する「ディズニーファンダム(ファンコミュニティー)のデジタルハブ」へ進化させることだ。
IPを軸にリアルとデジタルを回遊させて顧客生涯価値(LTV)を最大化する──。経営陣が「独自のレース」と表現するこのアプローチは、SVODを“ディズニー経済圏全体への入口”とする収益戦略に他ならない。
TBSホールディングスが100%出資して設立した映像コンテンツ制作会社「THE SEVEN」や、韓国「CJ ENM」傘下の動画配信サービス「TVING」とのパートナーシップ、競合SVODとのバンドル提供(セット販売)まで、自前主義に固執することなく、顧客接点を広げる真意はどこにあるのか。
王者Netflixとは異なる、独自のゲームを仕掛けるディズニープラスの勝ち筋とは? APAC地域のDTC(ダイレクト・トゥー・コンシューマ)事業を統括するトニー・ザメコウスキー氏に、日本市場におけるプラットフォーム戦略を聞いた。
トニー・ザメコウスキー ウォルト・ディズニー・カンパニー アジア太平洋地域(APAC)ダイレクト・トゥー・コンシューマ(DTC) シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー。同分野で25年の国際的な経験を有する。パリのワーナー・ブラザースからキャリアをスタートし、YouTubeではAPACの音楽事業立ち上げや欧州等での戦略的パートナー開発を歴任。直近のNetflixではAPACパートナーシップ部門VPとして、創設メンバーとして戦略的パートナーシップやマルチチャネル・キャンペーンを通じた事業拡大を9年に渡り主導し、現在の職に至る(筆者撮影)
シェア4位から逆襲 “ディズニー経済圏”を生かした「独自のレース」とは?
先述した調査によると、2025年のSVODサービスの国内市場規模は前年比14.3%増の推計6017億円となった。
サービス別のシェアでは、Netflixが前年比5.6ポイント増の27.1%で、7年連続の首位を獲得。2位のU-NEXTが17.1%、3位のPrime Videoが12.1%と続いた。こうした中、ディズニープラスは前年比0.6ポイント減の8.4%となったものの、DAZNを抜いたことで前年の5位から4位に順位を上げている。
この結果についてザメコウスキー氏は、他社と比べてローンチしてから期間が短いことを認めた上で「私たちがディズニープラスで目指しているのは、自分たちのやるべきことに集中し、独自のレースを走ることです」と話す。他社としのぎを削るのではなく「ディズニーは独自の戦い方を貫く」という姿勢を強調した。
他社と同じ土俵で加入者数だけを追うのではなく、IPやテーマパーク、クルーズライン、ローカルコンテンツなどディズニー全体の資産を生かしながら、顧客との長期的な関係を築き、事業全体の価値を高めていくのだという。ディズニープラスはそのための入口として位置付けている。「独自のレース」とは単なる差別化ではなく、ディズニー全体の収益性を重視した独自の経営戦略なのだ。
単なる動画配信ではない 「ディズニーのエコシステムの中核」
ザメコウスキー氏は「ディズニープラスを、グループ全体のエコシステムを結ぶデジタルの中心地と位置付けている」と説明する。
ディズニープラスの視聴画面を開けば、ディズニー、ピクサー、スター・ウォーズ、マーベル、そしてスポーツチャンネルのESPNまでが同じ場所に並ぶ。これは複数ブランドのコンテンツを寄せ集めたラインアップではない。新CEOのジョシュ・ダマーロ氏は、ディズニープラスを従来型のストリーミングサービスの枠を超えた「ディズニーファンのデジタルの中心」と位置付けている。ザメコウスキー氏も「私たちの目標は、ディズニープラスをディズニーファンダムの目的地にすること」だと説明した。
もともとESPNは、ウォルト・ディズニー・カンパニーのグループの中でも独立した事業会社であり、本来はディズニーやピクサーとは別のブランドだ。異なる出自を持つブランド群を、あえて1つのアプリに集約している点にこそ、ディズニープラスの戦略が表れている。
このエコシステムの強さを裏付けるのが、劇場作品とディズニープラスのコンテンツを行き来するクロスメディア展開だ。「スター・ウォーズ」の実写オリジナルドラマ「マンダロリアン」シリーズが劇場版として公開された際には、ディズニープラスにおける同シリーズやスター・ウォーズ関連タイトルの視聴時間が大きく伸びた。
逆に、もともと劇場作品として育ったマーベル作品(「アベンジャーズ」「アイアンマン」「キャプテン・アメリカ」など)は、ディズニープラスの複数シリーズへと形を変えて展開する。「トイ・ストーリー」も同様に、映画とディズニープラスの双方でIPの価値を伸ばしている作品の一つだ。一つのIPを異なるメディアで公開する構造は、単体のコンテンツ会社にはまねしにくい。
もう一つの仕掛けが、ディズニープラスの会員特典にあるという。会員に対してテーマパークなどでの割引や、会員だからこそ得られる特別な体験を提供している。このようにディズニープラスは、ディズニー経済圏全体の顧客価値を引き上げるハブとして機能しているのだ。ザメコウスキー氏は、この構造を『アナと雪の女王』を例に説明する。
「あなたが『アナと雪の女王』のファンなら、劇場でも見るでしょうし、ディズニープラスでも見るかもしれません。そして、本当のファンであれば、私たちのパークにある『アナと雪の女王』のアトラクションを体験するでしょう。さらに熱心なファンであれば、(隔年で、米アナハイムで開催している)私たちのファンイベント『D23』に行くでしょう。そこには何万人ものファンが集まります。好きなキャラクターに扮して、心から楽しんでいます」
劇場、配信、パーク、ファンイベントという接点を一本のIPで貫き、ファンとの関係を段階的に深めていく。この体験全体を自社だけで設計・提供できる点こそが、ディズニーが持つ強みでもある。
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