AIで月「400時間」「紙6000枚」削っても「そんな数字どうでもいい」 町工場が1億円規模のシステム内製で得たもの:変わる『現場リーダー』の条件――ネオ・ブルーカラーの衝撃(2/2 ページ)
「業務時間を何時間削減したか」は、AI活用の真の目的ではない――。金沢市の町工場、岡田研磨が進めるのは、AI時代の競争力となる「会社の記憶」の蓄積だ。
「どんぶり勘定」から脱却 蓄積データをAIで横断分析すると何が見えるのか
土台となる情報の蓄積が進んだ岡田研磨は今、次なるフェーズへと足を踏み入れている。集まった膨大なデータをAIに分析させ、データ間の相関関係を探り、仮説を立てるクロス分析の運用だ。
「例えば『この設備で不良が増えている場合、誰が作業していて、天候はどうだったか』といった異種のデータをAIに横断分析させ、課題の仮説を立てさせます。その仮説を基に経営陣は価格交渉や撤退、現場改善といった意思決定に集中できるようになります」
中小製造業では、製品ごとの正確な原価や粗利を追えず「どんぶり勘定」に陥るケースもある。同社も例外ではなかったが、自社アプリで実績データを蓄積したことで、製品の品番ごとの粗利が可視化されつつある。
「やればやるほど赤字になる製品が可視化されれば、値上げ交渉をするか撤退するかという経営判断を下せます。粗利率が何%改善したなどを語れるようになって初めて、AI導入の成果を数字で語る意義があると思います」
AIを使い倒すべきは誰か 「現場」と「経営」の役割分担
製造業のDX推進やAI活用と聞くと「現場の社員にもプログラミングや生成AIを学んでもらい、ボトムアップでアプリを開発すべきだ」という考え方もある。
しかし、岡田氏の考えは逆だ。
「持論にはなりますが、社内の誰もがアプリを作り始めると、データベースが分断され、かつてExcelの“野良マクロ”が大量発生したのと同じ混乱に陥ります。そのため、当社では社内でアプリを作れる人間は私と、ゼネラルマネジャーの2人だけで十分だと考えています」
現場の社員がAIを使う場合、自分の目の前の業務を効率化する「部分最適」に陥りやすい。事業全体のデータ構造を俯瞰(ふかん)し、経営に必要な情報を蓄積するシステムを構築するために、経営層こそがAIを使い倒すべきだ。これが岡田氏の考えだ。
岡田氏自身、プログラミング経験はなかったが、AIとの対話でスキルを学んだ。富士通では、インフラからセキュリティ、端末まで幅広く扱う営業を経験している。「総合的に会社にとって何が必要かを判断する知見は、富士通の営業職時代に培いました」と岡田氏は振り返る。ホワイトカラー職時代に養った視点が、現場のシステム設計に生きている。
「経営に資するシステムを作るには、会社の構造全体を理解している経営層自らがAIを本気で学び、使いこなすしか道はありません。現場の社員は、私たちが作ったアプリを現場で使っているうちに『気付いたら無意識にAIを使っていた』という環境を作るのが理想で、経営側の役割だと思っています」
AIを使わない企業は、単に現状維持にとどまっているのではなく、日々猛スピードで後退している――岡田氏は強い危機感を口にする。
「中小企業にとって、今はものすごく大きなチャンスです。経営層の中に一人でもAIを本気で使いこなし、会社のコンテキストをためられる人がいれば、ものすごいスピードで成長できる時代なのですから」
作業時間の削減という短期的な視点での成果で満足するのか。それとも「会社の記憶」を蓄積し、経営の変革を果たすのか。岡田研磨の挑戦は、AI時代における「現場」と「経営」の新たな関係を示している。
特集「変わる『現場リーダー』の条件――ネオ・ブルーカラーの衝撃」
生成AIの急速な進化は、製造や建設などの「現場」における組織の在り方やリーダー像にも影響を与える可能性がある。AI・DXを前提としたオペレーション改革が進む中、かつての経験重視の評価から、リスキリングでデジタル知識を得た人材や、ビジネススキルと現場知見を兼ね備える「ネオ・ブルーカラー」人材が台頭しつつある。現場を支える人材の多様化に伴い、評価や人事制度はどうあるべきか。特集では、事例や専門家への取材を通じて、これからの「現場リーダーの条件」を考えていく。
第3回:オーテック
第4回:岡田研磨(本記事)
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