「AI利用料は90%下落、でも支出増」の怪――AIコスト問題で注目の「ジェボンズのパラドックス」から考える
AIのトークン利用料金は90%下落しているのに、支出が増加する――こうしたAIコストを巡る議論では「ジェボンズのパラドックス」が注目されている。どのような考え方なのか。
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生成AIの導入が拡大する中、企業を悩ませているのが「コスト」の問題だ。AIを日々の業務に組み込んで利用量が増えるほど、AIモデルの処理単位である「トークン」の消費量が増えていく。AIによる業務効率化などの成果と、トークンコストの釣り合いをどう取るかが課題になっている。
実は、トークン価格は下落傾向にある。例えば米OpenAIは7月末、AIモデル「GPT-5.6 Luna」のAPI利用料金を80%引き下げた。100万トークン当たり1ドルだった入力料金を20セントに、6ドルだった出力料金を1.2ドルに改訂している。モデルや利用形態によって異なるが、AI各社がトークン価格を値下げする傾向がある。
AIのトークン料金が下がっているのに、なぜ企業は「AIコスト増」に悲鳴を上げているのか。この問題を議論する際に引き合いに出されるのが「ジェボンズのパラドックス」という現象だ。
AIコストを考える上で同パラドックスが鍵になると話すのは、AIエージェント技術の標準化を目指す団体「Agentic AI Foundation」のマニック・スルタニ氏(共同創業者兼CTO)だ。AIコストを巡る動向について、スルタニ氏が8月25日の記者発表会で語った。
「料金は90%下落、でも支出増」の怪 実態は?
Agentic AI Foundationは、オープンソースソフトウェアの普及を推進するThe Linux Foundation(Linux財団)が運営している。AIエージェント技術の標準化やオープンエコシステムの構築を掲げており、OpenAIや米Anthropic、米Google、米MicrosoftなどAI企業やビッグテックが参画している。
自律的に動作して複雑なタスクをこなすAIエージェントは、外部システムと連携して多くの情報を収集・処理するため、大量のトークンを消費するとされる。AIエージェントを普及させる上で、大きな課題の一つだ。
Agentic AI Foundationによると、過去12カ月でAPI利用料金は約90%下落した一方で、トークン使用量は50倍に増えているという。「価格崩壊を上回るペースで需要が伸びています。トークンコストが安くなったことで『より深い推論』『AIエージェントの計算』『マルチエージェントシステム』などの利用が増えたためです」(スルタニ氏)
Agentic AI Foundationは「トークン価格の下落は支出を減少させるどころか、はるかに多くの消費を促している」と説明する。
AIも通信もストレージも 「ジェボンズのパラドックス」とは何か
AIモデルの性能が上がり、さらに利用料金が下がれば、企業のコストも下がるのではないか。「技術の進歩によって使用量やコストが下がる」という直感に反する現象は、AIだけにとどまらない。この点を指摘したのが、ジェボンズのパラドックスだ。
「ジェボンズのパラドックスは、19世紀に登場した考え方です。資源の利用効率が上がると、あるいは価格が安くなると、その消費量は減るどころか増えてしまうという現象を指します。私たちは、石炭、電力、インターネットで同じようなパターンを目にしています」(スルタニ氏)
Agentic AI Foundationのマジン・ギルバート氏(エグゼクティブディレクター)は、同パラドックスをIT業界の最前線で目の当たりにしてきた。同氏は、GoogleのAI・機械学習領域でエンジニアリングディレクターを務め、米国の通信大手AT&Tでは5G計画やネットワークの運用自動化などを主導してきた。
ジェボンズのパラドックスが分かりやすい例として、同氏は「データ通信のトラフィック」を挙げた。通信ネットワークの運用効率化や自動化が進んだことで、1GB当たりのデータ伝送コストは低下した。しかしコストが下がると、利用者はより多くのデータを使うようになった。
「『ストレージ』も同様です。1GB当たりの保存コストが低下すると、企業はデータを削除することよりも保存し続けることを選ぶようになりました。その結果、保存コストの低下が新たな利用を促し、保管されるデータ量はむしろ大幅に増加しました」(ギルバート氏)
AIコスト問題、企業ができる対応は
ギルバート氏は、自身の経験を踏まえて「効率化によって単位コストが下がる」「コスト低下によって新たな利用方法が生まれる」「その結果として、コストの圧縮分を上回るリソースが消費される」という流れがあると説明。AIも同じ道をたどっている可能性が高いという。
「推論コストやモデル利用コストが下がるほどAIの活用範囲は広がり、結果としてトークン消費量は増えていくでしょう。今後の課題は、トークンをいかに安くするかだけではなく、それらをどのように管理し、価値ある形で活用していくかにあると考えています」(ギルバート氏)
企業のAI利用を巡っては、無料で利用できるオープンソースのAIモデル(米Metaの「Llama」やGoogleの「Gemma」など)を使う動きが出てきている。また、トークン利用料金が無料または安価な中国製のAIモデル(Alibabaの「Qwen」、Moonshot AIの「Kimi」など)も存在感を高めている。
AIの利便性を知ったいま、AIの利用を停止あるいは制限することは難しい。AIエージェントなど高度な利用が広がれば、トークン利用量やコストが増加することは必至だろう。ギルバート氏が提言するように、AIの管理方法や活用内容を見つめ直す必要があるのかもしれない。
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