年間「12億件」の伝票を処理、三菱食品がAIで挑む「受発注改革」 メーカーと卸の“個別最適の壁”、打破する方法は?(2/2 ページ)
食品メーカーと小売業の間に立ち、膨大な商品・在庫・物流データを扱う食品卸。三菱食品は、こうしたデータをAIにどう理解させ、業務やサプライチェーンの変革につなげようとしているのか。
データ基盤からAIが意味を理解する基盤へ
同社では、長年にわたり大規模な基幹システム(MILAI)が業務を支えてきた。2024年度には、このシステムをクラウドへ移行するプロジェクトが完了。次の段階として、データやAPI、AI、外部サービスを柔軟に組み合わせられるシステム構成を目指している。
そのデータ活用基盤として、2023年後半からSnowflakeを活用。データウェアハウスのモダナイゼーション(刷新)、データ運用管理体制の整備、AI発注モデルの構築、サプライチェーン最適化へと活用範囲を広げてきた。
現在は、自社環境で構築する「プライベートLLM」やAIエージェント、コンテキストレイヤーの整備へと進んでいる。
「Snowflakeの当初の役割はデータを集める基盤だったが、データを共有して使う基盤になり、今やAIがデータの意味を理解して、業務を動かすための基盤になりつつある」(石崎氏)
データ活用基盤を整えるだけでは、AIが業務を正しく遂行するために必要な情報が十分にそろうとは限らない。同社 データ・AIマネジメントグループ マネージャーの須山大樹氏は、AI戦略やAI基盤、データ戦略、データ活用基盤に加え、AIとデータの中間に位置するコンテキストレイヤーが必要になると説明する。
「これまでは高度なデータ基盤やAI基盤システムを持つことが強みだったが、現在は投資すれば誰でも簡単に使える時代。基盤そのものの保有による競争優位性は小さくなってきている。今後差がつくのはデータの意味付け、業務プロセスの最適化だと考えている」
コンテキストレイヤーを整備し「AIが社員と同じ目線、解像度で業務を捉え、自律的に業務を行える環境」を目指すという。
日清食品とのデータ連携も 需要予測の調整「2500時間」削減
食品流通では、メーカー、卸、小売りがそれぞれの業務を最適化しても、サプライチェーン全体の効率化にはつながらない。
石崎氏は「メーカーの最適と卸の最適は一致しない。これがサプライチェーンにおける典型的な『個別最適の壁』になる」と指摘する。
こうした「個別最適の壁」を打破するため、同社は2025年10月から日清食品と協業を開始した。製造、発注、在庫、物流、販売までを一連の流れとして捉え、両社にメリットが生まれる状態を目指している。
「物流問題、食品廃棄、資材・人手不足、これらは1社だけでは解けない。だからこそ、データ連携は単なるデジタルの話ではなくて、企業間の関係そのものを変える取り組みだ」
これまでに確認できた取り組みの成果は、大きく3つあるという。
1つ目は「受発注レスの実現」。在庫データを連携し、AIを活用してトラック配送を最適化する取り組みだ。両社の在庫状況や車両制約などを考慮し、受発注を減らす仕組みを検討した結果、配送回数を約3〜4割削減できる可能性を確認できた。
2つ目は「特売データの共有」。特売情報をより早く共有することで需要予測の精度向上につなげ、これまで発生していた調整時間を約2500時間削減した。
3つ目は商品情報を管理する「商品マスター」の連携。食品卸にとって負荷の大きい商品マスターの管理について、メーカーと卸の間で情報を早期に共有し、自動連携する仕組みを構築した。
さらに、三菱食品では2026年8月から、全社の業務プロセスをデータとAIを中心としたものに変革するプロジェクトを開始した。営業、ロジスティクス、マーケティング、コーポレート、ITなどの業務同士の関係性を定義し、AIがより自律的に業務を遂行する仕組みづくりを進める考えだ。
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