2週間で新モデル投入 Google復活の裏にある「AIがAIを作る力」の急伸力(2/2 ページ)
米Googleが新AIモデル「Gemini 4 Argon」「Gemini 4 Carbon」を相次ぎ発表し、先頭集団に返り咲いた。わずか2週間での連続投入を可能にした原動力は何か。米Vals AIの分析によると、AIが次のAIを作る「再帰的自己改善」(RSI)能力が急伸したという。半年前には「社内でのAI開発活用が出遅れている」と批判された同社が、共同創業者セルゲイ・ブリン氏の主導で遂げた開発体制の変化に迫る。
「開発が遅れている」批判から半年 研究者とAIが二人三脚の体制へ
GoogleがRSIを最優先し始めたというクリシュナン氏の推測は、同社内部の動きとも合致する。ロイター通信は8月、Googleの共同創業者であるセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)氏が社内での影響力を強め、計算資源や人員をRSIなどの重点領域へ強制的に振り向けていると報じた。
AI新聞は4月、Googleの開発現場においてAIツールの活用が遅れているという実態を取り上げた。元Google社員が、同社のエンジニアのうちAIに自律的にコードを書かせる「エージェント型」で開発しているのはわずか2割程度であり、残りの大半はAIの補助を受けつつも自分でコードを手書きしているとX上で暴露したのだ。
これに対してGoogle側は強く反論したものの、ピチャイ氏自身も後に、エージェント型コーディングの実装において他社に「少し遅れている」と認めざるを得なかった。
それから半年。ブリン氏は10月、Argonに関する座談会で「今では研究者とモデルが一緒になって、次のモデルを開発している」と明かした。ピチャイ氏もまた、ブリン氏が主導したRSIへの注力がArgon開発における極めて重要な要因であったと認めている。
Googleは本当に復活したのか
クリシュナン氏はArgon発表直後のXへの投稿で、AIの知能が人間の研究者を上回るにつれて、RSIの能力こそが「その企業が業界の最先端にとどまり続けられるかどうかを占う先行指標」になっていくだろうと述べている。
RSI Indexにおける急伸と、わずか2週間でのCarbon投入。この二つの事実は、いずれも「AIでAIを作る力」がGoogle内部で急速に確立されつつある証拠と解釈できる。同社がAI競争のトップ集団に力強く返り咲いた背景には、創業者のブリン氏がRSI能力の獲得へ開発の舵を大きく切った決断があったと言えそうだ。
果たしてGoogleは真の完全復活を遂げたのか。Vals AIはCarbonのRSI Indexをまだ公表していない。今後明らかになるCarbonのスコアと、Googleが次のモデルを世に送り出すまでの間隔が、その真価を証明することになる。
本記事は、エクサウィザーズが運営するAI新聞内の記事「Google復活の背景に『AIでAIを作る力』の急伸」(2026年10月31日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
著者プロフィール
湯川鶴章
AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。
© エクサウィザーズ AI新聞
関連記事
なぜGoogleは、OpenAIとAnthropicに勝てないのか? 「世界最大の計算資源」の使い道
米Googleは次世代AIモデル「Gemini 4 Argon」を発表したが、第三者評価で米Anthropicや米OpenAIの後塵を拝した。Googleは世界のAI計算資源の約4分の1を握る最大手でありながら、なぜ首位に立てないのか。背景には、外部販売で稼ぐクラウド部門、検索部門、AI開発のDeepMindによる熾烈な「チップ争奪戦」がある。競合に計算資源を売る方が儲かるという経営の現実と組織力学の歪みを解き明かす。
OpenAI「Dots」に追随なるか Google「Gemini Agent」参戦で過熱するパーソナルAI競争
米Google Cloudは企業向けイベントでAIエージェント「Gemini Agent」を発表した。単なる指示ではなく目標を渡すだけで自律的に業務を完遂する。最大の特徴は、専用メールアドレスや名簿を持つ独立した「AI同僚」として機能する点だ。さらに業務に応じて米Anthropicの「Claude」などもモデルとして選択可能。米Metaや米OpenAIとのパーソナルAI覇権争いが一気に過熱している。
請求書は青天井 Microsoftトップが「AIモデル大手に主導権を渡すな」と叫ぶ真意
MicrosoftのナデラCEOらが相次いで「AIモデル大手に主導権を渡すな」と叫び、波紋を広げている。企業の独自ノウハウが汎用モデルに吸収されるリスクや、AIエージェント化に伴う「青天井の請求書」への恐怖が背景にある。しかし、脱モデル依存を煽る2大巨頭の正論の裏には、自社プラットフォームへ顧客を囲い込もうとする思惑も透けて見える。エンタープライズAIの最新の地政学を考える。
「学歴は無価値に」 米トップエンジニアが明かす、AI時代に“大化けする人材”の共通点
「履歴書の時代は終わった」──AIの普及によって、企業の採用や人材評価のルールが大きく変わり始めている。
売上高93%増のPalantirが独走 AI競争の主戦場「制御層」を奪い合う3陣営
AI競争の焦点はモデル性能から、企業の業務・データ・権限を管理しAIを現場で動かす「コントロールプレーン」(制御層)へと移った。20年前から「オントロジー」(業務の地図)を蓄積してきた米Palantir Technologiesは第2四半期決算で売上高93%増と異次元の成長を記録。この独壇場に対し、米Snowflakeなどのデータ陣営、Amazon Web Servicesなどのクラウド陣営、米OpenAIなどのモデル陣営が参入し「法人AIの覇権」を巡る最終戦争が始まった。
中国は敵ではない NVIDIAトップが警告する「米中共存」とAIインフラの盲点
米NVIDIAのジェンセン・フアンCEOは、中国をAIの脅威とみなして封じ込めようとする米国の現在の政策姿勢に、真っ向から異を唱えた。「中国を敵に仕立て上げることは最善の答えではない、彼らと対話することが最も安全な道だ」という。「競争相手と敵は違う」というファン氏のこの一言が、議論の出発点だ。
人間は「取締役」、AIが「CEO」 サム・アルトマンがAGI論争を終了させてまで語りたかった「ASI」の未来図
「AGI」(汎用人工知能)は、気付かないうちに到達してしまった――だから次はASI(超知能)の定義を決めよう」。米OpenAIのサム・アルトマンCEOは、AGIをめぐる終わりのない論争に決着をつけるかのような提案をしている。宣言を急ぐ裏には、Microsoftとの間に抱える“巨額契約の時限爆弾”があった。AIがCEOになる」衝撃の未来図とは?
「人間がコードを書く時代は終わった」 “Claude Code”が引き起こす「知能の価格崩壊」
AIがソフトウェアを書く時代が、いよいよ本格的に始まりつつある。「GitHub」の公開コミットの約4%が、米AnthropicのAIエージェント「Claude Code」によって書かれていて、2026年末には20%以上に達するという。この変化は、単なる「AIコーディングツール」の普及ではない。PCの使い方そのものが変わり始めている。
AIによる“社会崩壊”まで残り3年 トップ識者が警告する「地獄のシナリオ」
AIがもたらす生産性の爆発は、最終的には人類に豊かさをもたらす可能性がある。しかしその途中には、社会が崩壊しかねない危険な移行期があるという。
AI競争は「Googleの圧勝」で終わるのか? Gemini 2.5 Proの衝撃
米国のテック系人気ユーチューバーの何人かが、こぞって「AI開発競争はGoogleが勝利した」という見出しの動画をアップしている。これでGoogleの勝利が決定したのかどうか分からないが、少なくともOpenAIの首位独走の時代は終わったのかもしれない。

