「ブラック・スネーク・モーン」+D Style 最新シネマ情報

» 2007年08月17日 15時26分 公開
[本山由樹子,ITmedia]
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 半裸のクリスティーナ・リッチが、サミュエル・L・ジャクソンに鎖でつながれている。そんな予告映像やポスターを見たら、エロティックな犯罪映画を想像してしまうだろう。しかも、セックス依存症の女を初老の男が鎖でつないで自宅に軟禁……なんて聞いたら、なおさらだ。アメリカ版「完全なる飼育」か!? いや、これが実に真面目な作品でビックリ。

 舞台はアメリカ南部の田舎町。かつてブルース・ミュージシャンとしてバーで弾き語りをしていたラザラスは、妻を弟に寝取られて以来、立ち直れずにいた。ある日、ひどく殴られ、瀕死の状態で道に倒れていたレイを助ける。とりあえず自宅に連れて帰り介抱するが、どうやらレイの様子がおかしい。哀しい過去を抱えるレイはセックス依存症で、その発作に苦しんでいたのだ。敬虔なクリスチャンのラザラスは、レイを立ち直らせたい一心で彼女を鎖で縛りつけ、荒療治を試みるが……。

 主要人物はラザラスとレイ、そしてレイの恋人ロニー(ジャスティン・ティンバーレイク)の3人。3人とも何らかの心の闇を抱えていて、そこから逃げ出したくても逃げることができずに、もがき苦しんでいる。彼らの関係は鎖のように危うく、重苦しく、そして痛々しい。だが、絆が深まるにつれ、まるで鎖が解かれるように、一筋の希望も見えてくる。

 特筆すべきは、キャストの息詰まるぶつかり合い。中でもクリスティーナ・リッチがいい。本物の鎖を使用しての撮影を望み、両手が水ぶくれになったこともあるという気合いが画面から伝わってくる。また、小柄ながらメリハリのあるボディがこの役に説得力をもたせた。一方のサミュエルも、前作「スネーク・フライト」の撮影中にもギターの練習を欠かさなかったというだけあって、サマになっている。ちなみにタイトルの「ブラック・スネーク・モーン」は、彼が歌う曲のひとつで、直訳すれば“黒蛇のうめき”。戦前に活躍したブルースマン、ブラインド・レモン・ジェファーソンの曲で、襲いかかる闇を黒蛇に喩えているということだ。

 激しいラブシーンも暴力的なシーンもあるが、メインテーマは人間の脆さ。果たして3人は、心の闇という鎖を解くことが出来るのだろうか!? 強烈かつ味わい深い人間ドラマをお見逃しなく。

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ブラック・スネーク・モーン

監督・脚本:クレイグ・ブリュワー/製作:ジョン・シングルトン、ステファニー・アレイン

出演:サミュエル・L・ジャクソン、クリスティーナ・リッチ、ジャスティン・ティンバーレイク

配給:UIP

2007年9月1日より渋谷シネ・アミューズにて公開



筆者プロフィール

本山由樹子

ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。


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