「再会の街で」+D Style 最新シネマ情報

» 2007年11月21日 13時15分 公開
[本山由樹子,ITmedia]
photo (c) 2007 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

 来年2月に開催予定の第80回アカデミー賞におそらく絡んでくるであろう、いや絡んできてほしいという願いもこめて、アダム・サンドラーとドン・チードル共演のヒューマン・ドラマ「再会の街で」を紹介。

 ニューヨークで開業している歯科医のアランは、ある朝、渋滞に巻き込まれた車の中から大学時代のルームメイト、チャーリーを見かける。ボサボサの頭、うつろな目、だぶだぶの服、片手にペンキ缶を下げたその姿に昔の面影はなく、とても成功した歯科医とは思えない。「チャーリー、チャーリー」と何度も声をかけるアラン。しかし、彼の声は雑踏にかき消されて届かない。後日、2人は街で再会するが、チャーリーはアランのことを知らないと言う。実はチャーリーは9.11テロ事件で3人の娘と妻を失い、他人との接触をことごとく断ち切り、過去の記憶をすべて閉ざしていたのだ。チャーリーの前では彼の家族の話はご法度。少しでも触れようものなら、彼は人が変わったように大暴れする。アランは何とかチャーリーの心の回復を目指すが……。

 アダム・サンドラーにしては珍しくシリアス系だが、いつもの顔とは全然違う。孤独と絶望を見事に表現し、少しずつ心を解放していく様子を繊細に演じている。特に、自分の過去を突然語り始めるシーンの表情は忘れがたい。

 ほかにも、旧友アラン役のドン・チードルはもちろん、判事役のドナルド・サザーランドにも注目してほしい。風貌、語り口と何から何まで貫禄十分で、その見事な裁きっぷりは拍手もの。

 舞台となるニューヨークの街並みが美しく描かれていることもポイント。真冬の寒さを肌で感じ取れるような空気感、原付スクーターが滑るようにビルとビルの間を走り抜けていく素晴らしさ。このオープニングは語り継がれるであろう、名シーンのひとつだ。

 この映画で孤独を抱えているのはチャーリーだけではない。仕事も家庭も順調でストレスフリーに見えるアランも、実は誰にも不満を話せず、毎日を窮屈に感じている。アランにトンデモない要求を突きつける美人の患者も、ポッカリ空いた心の寂しさを何かで埋めようともがいている。彼らの姿とチャーリーの孤独が重なり合って、とにかく泣かされる。しょせんは他人なんて寂しいことは言わずに、周囲の人と深く関わりを持つことで、自分自身の寂しさも埋められるはず。人肌恋しい季節にピッタリの作品、是非スクリーンで!

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(c) 2007 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

再会の街で

監督・脚本:マイク・バインダー

出演:アダム・サンドラー、ドン・チードル、ジェイダ・ピンケット=スミス、リヴ・タイラー、サフロン・バロウズ、ドナルド・サザーランド

配給:ソニー・ピクチャーズ

2007年12月22日より恵比寿ガーデンシネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー



筆者プロフィール

本山由樹子

ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。


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