コラム
» 2009年02月02日 13時21分 公開

+D Style 最新シネマ情報:「誰も守ってくれない」

モントリオール世界映画祭最優秀脚本賞を受賞した「誰も守ってくれない」は、これまであまり語られてこなかった“加害者家族の保護”にスポットを当てた作品。表現の自由とプライバシーの保護は、どこで線引きされるべきか――考えさせられる。

[本山由樹子,ITmedia]
photo (C) 2009 フジテレビジョン 日本映画衛星放送 東宝

 「誰も守ってくれない」は、「踊る大捜査線」シリーズなどで知られる脚本家・君塚良一の監督第3作目にあたる。脚本も監督本人が書いていて、モントリオール世界映画祭最優秀脚本賞を受賞した。

 ごく平凡な家庭の未成年の長男が、小学生姉妹殺人事件の容疑者として逮捕される。家の周りには、マスコミや野次馬があっという間に押し寄せる。警察は容疑者家族の保護マニュアルにのっとり、夫婦は離婚、改めて婚姻し、夫が妻の戸籍に入り、家族の苗字を妻の旧姓に変えさせられ、娘は就学義務免除の手続きをとらされる。あれよあれよという段取りの良さで、保護マニュアルの一連の作業が進められていく。プレス資料によれば、君塚監督はドラマ「TEAM(チーム)」のスペシャル版でも加害者の家族を離婚させ、苗字を変えて保護する話を扱っていたそうだが、筆者は本作で初めてこの制度を知った。

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 刑事の勝浦(佐藤浩市)は容疑者の家族保護を命じられ、容疑者の妹で15歳の少女・沙織(志田未来)の担当になる。勝浦は、かつて幼児殺害事件を未然に防ぐことができず、心に傷を負い、生活はすさみ、家族との仲も破綻しかけていた。

 容疑者が未成年ということで、たちまちマスコミの餌食となるが、追いかけるのはマスコミだけではない。「わざわざ国民の税金を使ってまで、加害者側を守る必要がどこにある」という、冷ややかな視線がこれでもか、と浴びせられる。容疑者逮捕からわずかな時間で家族の個人情報が流れ、さらに沙織を守る勝浦刑事の過去までもあらわにされていく。勝浦と沙織は追いつめられ、孤独な逃避行の果てに、海辺のペンションにたどり着く。

 これまであまり語られることのなかった、加害者家族の保護だが、手持ちカメラを多用したドキュメンタリータッチの演出がリアルな臨場感を生み出している。マスコミの過剰なバッシングと、匿名を武器に個人を誹謗中傷するネット社会の暴走と悪意。その凄まじさは今さらながら目を覆いたくなる。

 主演の佐藤浩市、若き演技派・志田未来の熱演も忘れ難いが、もう1人の刑事役、松田龍平はこれまでのベストアクトではないかと思うわれるほど、力の抜いた存在感でいい。最初はいい加減に見えるが、事件に客観的距離を置き、やがて人間味があることが分かってくる。

 表現の自由とプライバシーの保護の問題は、どこで線引きされるべきか、それぞれに言い分があると思う。映画でも結論は出していないが、少女を何とか守ってあげたいと思うはずだ。現代社会を反映したタイムリーかつ見応えある1本、かすかな希望を感じさせるラストもいい。

誰も守ってくれない

監督:君塚良一

脚本:君塚良一/鈴木智

出演:佐藤浩市、志田未来、松田龍平、石田ゆり子、佐々木蔵之介、佐野史郎

配給:東宝

2009年1月24日より全国ロードショー



筆者プロフィール

本山由樹子

ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。


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