コラム
» 2009年05月30日 08時00分 公開

F1から撤退したホンダが得たものと失ったもの(2/3 ページ)

[吉岡綾乃,Business Media 誠]

 今年のF1は全体的に、去年のチーム成績がまったくあてにならない展開で進んでいる。去年優勝を争ったマクラーレンとフェラーリが共に低迷しているのだ。ブラウンGPに次いで好成績なのは、レッドブルとトヨタである。ブラウンGP対トヨタでトップを争う展開も見かける。

莫大な広告価値を持つブラウンGP

 筆者が思うに、F1撤退に際してホンダは2つの大きなミスをしたのではないか。1つめのミスは、F1において今や誰も“ホンダ”と口にできなくなってしまったことだ。ブラウンGPの名を呼ぶとき、ほとんどの人は心の中で(ホンダじゃなくて)と付けているだろう。実況中継を見ていて、アナウンサーが無意識に「ホンダのバトンが……」と話していたのも聞いたことがある。ブラウンGPが活躍するたびに、「本来ならこれはホンダのはずだったのに」という思いはどうしても残る。

 もしブラウンGPをホンダと呼べたら、どれくらいの宣伝効果があるのだろうか。ブラウンGPの広告価値については、ちょっと面白い数字がある※。シーズン開幕前、スポンサーのVirginがブラウンGPと結んだ契約は1レースあたりたったの25万ドル(約2400万円)だった。2009年開幕戦(オーストラリアGP)1レースでブラウンGPのクルマがテレビに映った時間は42分38秒。これはVirginにとって、1042万8000ドル(約10億円)相当の価値になるというのだ。

 これはスポンサーとして車体にロゴが表示されたVirginの数字だけだから、チーム全体にはこの何倍もの広告価値があることになる。弱いチームより、強いチームのほうが広告価値が高いのは当然。開幕戦以降勝ち続けているブラウンGPの広告価値は、今も右肩上がりで増し続けているはずだ。

2005年日本GPで鈴鹿サーキットを走る佐藤琢磨選手。このときはB.A.R HONDAに所属しており、チームメイトはバトン選手だった

 もう1つのミスは、チームだけでなくF1における人脈も絶ってしまったことだ。ホンダやトヨタは、若手ドライバーを育成する手厚いプログラムを持っており、現在F1を始め世界で活躍する日本人ドライバーはほとんどがホンダかトヨタの支援を受けて育ってきた人たちだ。

 ホンダ育ちの日本人F1ドライバーとしては、2008年にスーパーアグリチームで走っていた佐藤琢磨選手がいる。彼は2008年にスーパーアグリチームが解散したあと、自分を走らせてくれるチームを探し続けていた。今シーズン、トロ・ロッソチームのテストを受けるところまで行ったが、トロ・ロッソは彼と契約しなかった。彼に代わってシートを獲得したセバスチャン・ブエミ選手は、5月末現在20人中14位。苦戦する彼を見るたびに、「これが佐藤琢磨だったら……」と悔しい思いをしているのは筆者だけではないはずだ。たとえ日本チームでも、佐藤選手を始め、ホンダ系のドライバーがトヨタチームで走ることは、まずない。ホンダがF1を去る代わりに、佐藤選手がどこかのチームに在籍できるように手を打っていたなら、“チームは撤退しても、ホンダはF1に残っている”とファンは感じたのではないだろうか。

 2008年、低迷するホンダチームがシーズンを捨てて、すでに2009年用のクルマの開発に賭けていたことは広く知られている。ホンダがF1を撤退すると決めたとき、関係者は「来年は今年より、いい成績を出せるから待ってくれ」とおそらく懇願したはずだ。

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