一眼レフを身近にしたOLYMPUS 「OM-10」の悲劇:-コデラ的-Slow-Life-
いつかは手に入れたいと思っていたカメラ OLYMPUS OMシリーズ。人気のない入門機「OM-10」のジャンクを3000円で見つけたので、買ってみた。ファインダ内の汚れがひどかったが、外装は美品。丁寧に扱われていたカメラのようだ。
OLYMPUSというメーカーは、野球のピッチャーに例えれば、変化球投手であろう。剛速球ど真ん中ではなく、いつも他社とは違う、ちょっと変わったところで勝負している印象を持っている。
OLYMPUSが一躍カメラメーカーとしてスターダムにのし上がったのは、1959年の「Pen」の発売がきっかけだろう。1970年代まで大ブームを巻き起こす、いわゆるハーフカメラの先駆けである。
ハーフカメラ自体は米国ですでに戦前から存在したが、OLYMPUS Penは「もはや戦後ではない」のキャッチフレーズに励まされ、高度経済成長へ向かう日本において、1本のフィルムに2倍撮れるというお得感、そして小型で軽量、簡単、カッコいいというところが受けた。
このPenこそが、のちに天才設計者と呼ばれることになる米谷美久氏のデビュー作である。そして合理性と機能美を追求する米谷イズムが、長くOLYMPUSの方向性を決定づけることになる。
そしてOLYMPUS OM-1は、長年ハーフカメラを引っ張ってきた米谷氏が手がけた、最初の一眼レフカメラだった。当時の一眼レフの中でも破格に小さく、軽いカメラシステムだった。
発売当初は米谷の頭文字を取ったM-1と言ったが、ライカに同じM-1というカメラがあって、クレームが入った。今なら発売する前からそのぐらいのことはわかりそうなものだが、のんびりした時代だったのかもしれない。
そんなわけでOLYMPUSのM-1は翌年、OLYMPUSのOをくっつけて、OM-1という名前になって再発売され、世の中に広く知られることになるわけである。
人気のないOM-10
そんなOLYMPUS OMシリーズも、いつかは手に入れたいと思っていたカメラであった。中古市場でもOMレンズは数が多いが、人気が高くなかなか値段が下がらない。いつか試してみたいと思いつつも、それにはまずボディがないことには、お話にならない。
そう急ぐわけでもなかったが、たまたまOM-10のジャンクを3000円で見つけたので、買ってみることにした。動作には問題なさそうだが、ファインダ内がひどい汚れである。底部の三脚穴の周りには相当のスリ傷があるが、外装は綺麗なものだった。どうやらだいぶ実働したようだが、丁寧に扱われていたカメラのようだ。
OMシリーズは、高級機が1桁、廉価版が2桁という具合に分かれている。従ってOM-10は、OM-1、OM-2と続いた高級機ラインアップとは別の、入門機モデルの最初である。発売はOM-1の7年後、1979年であった。
OMシリーズの最高峰として、初代OM-1の人気は揺るぎないところだ。だが当時の製造技術に問題があったのか、特にOM-1はプリズムの蒸着が腐食したものが多い。一方OM-10は、市場ではあまり人気のないカメラである。中古市場でも安値で取引されるOM-10は、OM-1のプリズム取り用といった情けない扱いを受けている。
OM-10は入門機ということで、操作も格段に簡単になっている。ボディにはシャッタースピードを決めるダイヤルがない、絞り優先のカメラである。
測光は、OM-2で成し遂げた世界初TTLダイレクト測光である。フィルムを巻き上げると、シャッター幕に二次元バーコードのようなパターンが現われる。これの反射率を使って、フィルム面での露出を計るわけだ。
このパターンは、世界中のフィルムの反射率を計って決められたのだという。当時の印刷技術では均一な反射率のグレーを量産することができなかったため、白と黒の市松模様のパターンとなっているわけだ。ただしOM-2との差別化のためか、ストロボのTTL制御ができないのが痛い。
マニュアルで撮影するには、別途マニュアルアダプタというのを取り付ける。これがシャッタースピードを設定するダイヤルとなるわけだ。だがファインダを覗けば、現在の絞りに対する適正なシャッタースピードがLEDで表示されるわけだから、ファインダを覗きながら絞りを調整すれば、シャッター優先とも言える。このあたりはのちのXAと同じ考え方だが、当時の一眼レフでは許されなかったらしい。
このようにOM-10は、のちの一眼レフに大きな影響を与えた合理性を体現している。電源は、ONにしたままでも放っておくと、約90秒で自動的に電源が切れる。電源がないとシャッターが切れないカメラだが、うっかり放置して肝心なときに写真が撮れないということがないようになっている。
また電源OFFの場合も、ファインダ内のLED表示が点かないだけで、シャッターを切ればちゃんと適正露出で撮れる。このあたりの思想も、いかにもOLYMPUSらしい。
ただマニュアル撮影のできない簡単一眼であるため、露出補正は面倒だ。具体的には、ISO設定を直接いじることになる。いくらダイヤルに+1とか+2とか書かれても、そうしょっちゅう変更するようなものではない。第一元のフィルムのISO感度を忘れてしまった日には、目も当てられない。
実際には、見た目で露出補正ができるようなユーザーなら、OM-10は使わなかったことだろう。
小寺 信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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