シンプルでレトロなデザイン、YASHICA Half17:-コデラ的-Slow-Life-
フィルムを2分割し、通常の35mmフィルムで2倍の撮影ができるハーフカメラは、1950年代末から約10年間ブームとなった。ある日、老舗メーカー「ヤシカ」製ハーフカメラのジャンク品に出会った。筆者にとっては初のヤシカである。
“ハーフカメラ”と言われても、今では何のことだか分からない人も多いと思う。よくレンズの画角を「35mm換算で〜」などというが、これは長らく35mmフィルムが撮像面だったからだ。今は撮像素子のサイズがAPS-Cやフォーサーズといった、35mm版よりも小さな撮像面が登場しているが、大昔にも小さな撮像面を用いるカメラというのが存在した。
それがハーフカメラである。一般のフィルムで1コマ撮るところを、サイズを半分にして2コマ撮れる。横長の画角を半分にするわけだから、当然、縦長が基準になる。写真で考えると変な感じだが、それはフィルムが横に走るから。映画の場合はフィルムが縦に走ることになるので、実はこのハーフというサイズが、映画では35mmの標準である。
ハーフカメラは戦前から存在したが、国産カメラメーカーが勃興し、日本でブームになったのは、1959年から1967年ぐらいまでの約10年弱の間でしかない。それでも低価格で庶民のカメラであったことから、沢山のモデルがリリースされ、大量に製造された。
「ヤシカ」は50年代の二眼ブームから続いたカメラの老舗メーカーだが、ベストセラー機である「ヤシカ エレクトロ35」の前後に、ハーフカメラを数モデルリリースしている。当時はハーフの中でも大口径のレンズを使用した高級路線であったと聞くが、今の目で見ると、それほど大きくもない。もっとも、比較対象がRICOH Auto Halfとかだったら(参照記事)、十分大口径と言えるが。
ヤシカのハーフはそれほどヒットしなかったようで、中古市場に出回っている数はそれほど多くない。従ってジャンクとはいえ、結構な値が付いている。そのHalf17は、委託販売ということで7000円で売られていた。露出計は動かず、シャッターも動かないということであったが、外装がそこそこ綺麗ということで、この値段であった。
ジャンクにしては高いと思ったが、以前からヤシカのカメラは1台ぐらい触っておきたかったので、購入した。
紆余曲折のYASHICAブランド
Half17の17という数字は、レンズの解放F値が1.7だからである。のちに露出方式を変えた「Half14」というのが出ているが、これには解放F値が1.4のレンズが付いていた。今の感覚で言うとF1.7は相当明るいレンズだが、単焦点でハーフサイズということを考えると、実はそれほど珍しいスペックでもない。
ただ富岡光学器械製造所がヤシカに供給していたYASHINONレンズは、現在でもブランドとして高く評価されており、ヤシカ エレクトロ35も大口径レンズがウリだったそうである。
セレン素子を使った露出計を搭載し、オートではF1.7〜16、シャッタースピード1/30〜1/800秒の可変だったという資料がある。マニュアルでは絞りは手動で、シャッタースピード1/30秒固定となる。距離は4点ゾーンフォーカスで、目測である。画角は35mm換算で、約45mm。
ヤシカはカメラメーカーとして一眼レフまで製造したが、どちらかといえば低価格な大衆機を得意としたメーカーだったようだ。特に露出の電子制御に関して積極的に取り組み、富岡光学の明るいレンズと合わせて、暗部に強いとされた。
しかし他方面での事業の失敗とオイルショックによる景気後退で、1975年に経営破綻、1983年には京セラに吸収合併された。日本ではこの時点でYASHICAブランドは終焉を迎えたが、海外では知名度が高く、京セラ製の低価格モデルはYASHICAブランドで販売されたそうである。
しかし2007年には京セラ自体がカメラ事業から撤退し、YASHICAブランドは香港の販売代理店に売却された。最近では、この香港の会社と日本のエグゼモードが共同でYASHICAブランドのデジカメを販売するというニュースも流れたりした(参照記事)。
思うにYASHICAブランドの価値は、ほとんど富岡光学のレンズにあったように思う。その技術が引き継がれなくてもYASHICAの名前が存続することに、違和感を感じてしまう。
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