総務省はOSSに対して「影響力のあるユーザーの1人」――LWの基調講演にて

総務省の高村氏は、電子政府・電子自治体におけるOS選定において、総合評価方式の競争入札を実施することが適当であると話す。また、政府を「うまく使う」ことに価値を見出してほしいという。

» 2004年06月03日 04時28分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「LinuxWorld Expo」というブランド名のイベントが国内で開催されるのは、1999年3月の第1回から数えて、今回で10回目となる。記念すべき10回目の開幕特別記念講演には、総務省情報通信政策局情報通信政策課情報セキュリティ対策室課長補佐の高村 信氏が招かれた。同氏は「電子政府・電子自治体におけるOS選定のあり方について」と、オープンソースにおける総務省と経済産業省の役割の違いも含めて語ることで、政府レベルでLinuxにも目を向けていることを強調した。

高村氏 メイン業務が「セキュリティ対策」となるため、オフィスではWindowsのほかにDebian(Woody)とFedora Core 1を使っていると話す高村氏

総務省は影響力のあるユーザーの1人

 高村氏はまず、「なぜ総務省がLinuxWorld Expoに来たか」という問いに対して「世間に対して影響力のあるユーザーの1人だから」と答えた。今の総務省は、旧総務庁、旧自治省、旧郵政省からなっているが、「これを偽装結婚と揶揄する声もあることは理解している。しかし、我々もそうした声を受けながら頑張っており、社会的なインパクトも与えられる声が大きいユーザーだといえるのではないだろうか」と述べた。

 とはいえ、総務省としてOSS(オープンソースソフトウェア)に対してどう取り組んでいるかを問われれば、「ほとんどやっていない」(高村氏)という。同氏は「ソフトウェアそのものをどうするかという政策は経済産業省の仕事」とし、国内事業振興のためにOSSを推進する、という経済産業省のスタンスが正直うらやましい部分もあると胸のうちを明かす。

 しかし、「ユーザーの立場としては選択肢が多いことを切望しており、特定のOS以外に選択肢がないという現状は打破したい。そのためにはすでに存在する選択肢についてはきちんと認知する必要があると考えている」と話す。

 そして高村氏は、「総務省はLinuxにとって少なくとも敵ではないが、とはいえ『無条件の味方』にもならない。検討した結果OSSは使えない、という結論になることもあり得る。アンチLinuxでも信者でもない」と述べ、何かをする結果としてOSSに寄与することはあるかもしれないが、OSSに対して寄与すること「だけ」を目的として活動することはないという姿勢を説明した。

政府調達は総合評価方式の競争入札に、OSSはサポート提供義務を盛り込む形で

 総務省では、2003年6月から2004年4月まで、「セキュアOSに関する調査研究会」を開催していた。これは、電子政府・電子自治体などのシステムに対するオープンソースOS導入のあり方の検討に資することを目的として実施されたもの。

 しかし、高村氏が2003年8月に同研究会に配属されるまで、十分な方向性が定まっていたとはいえなかったという。加えて、予算の問題で造りの良し悪しまで踏み込めず、同氏の配属以後も、結果としてカタログスペックでの比較が中心で、それ以外にメンバーの知見が加わる程度のものだったという。

 とはいえ、オープンシステムを前提に、Windows、商用UNIX、OSSのUNIX(Linuxを含む)をセキュリティを中心にコスト・運用などの面を、客観的・中立的に分析を行った結果、業務ごとに求められる機能、セキュリティ要件などはそれぞれ異なるため、適材適所のOSをシステムごとに採用することが望ましく、特定のOSがすべてにおいて1番にはならないという「至極当然の結果」(高村氏)が導かれた。

 ここでは、OSSのUNIXの利用を否定するだけの材料もなく、その使用に際してはほかの2つに見劣りしないという結果が出たというが、OSSの導入に当たっては、納入業者あるいはSIerとの保守契約を必須とし、そこにパッチ提供を含めた、サポート提供義務を盛り込むことが必要であるとされた。

「業務用のシステムにおいて、独自の修正を行うことは可能かもしれないが、その独自修正がシステムの別の部分に影響を及ぼさないとは言い切れない。『ソースコードが入手できる』ということと、『自分で直せる』ということを同一で語っていては話の収拾がつかない。買いっぱなしではなく保守運用を考えてそこにお金をかけることが重要となる」(高村氏)

 結果的に同研究会から提言されたのは、「OSを実質限定した形での調達は不適当」であり、「総合評価方式の競争入札を実施することが適当」というものだった。

 実際の調達現場では、機能要件を書くのが面倒であるか、またはそれしか知らないため、「Windows XPもしくはそれに相当する機能を有するもの」といった指定をすることが多いという。

 選択肢を狭めかねないこうした現状を打破するために望まれるのが、総合評価方式による競争入札である。この方式は、要求される機能や要件をリスト化し、その適合度合いを数値化することで公平な評価を行う「提案募集型」の調達方式である。同研究会でも52分類92項目のリストを作成している。

デスクトップOSでは現状では『Linux』という括りが、実は邪魔?

 高村氏は、各公的機関のLinuxの採用状況についても説明した。いわゆるエッジ部分の小規模サーバ系については、実数を把握していないとしながら、多数利用されているという。

 しかし、大規模サーバ系、基幹業務系については、まだ導入には怖いものがあるという。国勢調査などのデータを扱う部分などは、現在でもメインフレームで処理しているという。「情報漏えい事件への風当たりが強い昨今、さすがに政府・自治体が人柱にはなれない」(高村氏)とし、事例などの形で実績が積み重ねられた時点で検討したいと話す。

 そして、デスクトップ用途は、残念ながらまだ使えるレベルでないという。同氏は『使える』オフィス・スイートが望まれると話す。ここで『使える』というのは、MS Officeや一太郎のファイルが当該アプリケーションと同じように表示、印刷、保存可能なことを指す。

 これは、政府や自治体では、一般の方からさまざまなファイルが送られてくるが、それらは印刷して紙で見ることを前提として、レイアウト自体にセマンティクスを持たせていることが非常に多いためだという。

「Wordと一太郎が1台のPCにインストールされているのが当たり前な組織。当該アプリケーションと同じ処理ができなければ意味がない」(高村氏)

 続けて同氏は、「デスクトップOSとしての普及を目指す際に、現状では『Linux』という括りが、実は邪魔」であると話す。

 業務用のシステムでLinuxを選択する場合、stableなディストリビューションまたは独自のディストリビューションを選択せざるを得ない。しかし、こうしたものはドライバの問題などで、比較的最新のパソコンには容易にインストールできないケースも多い。自宅に持ち帰って作業することもあることを考えると、得てして最新のPCであることが多い自宅のPCには「最新志向」のディストリビューションを選択せざるを得なくなる。この差異について懸念があるという。

「Linuxカーネルなどが各ディストリビューションでバラバラという状況は、ユーザー的な観点で考えると、やはり問題となってしまうのではないだろうか」(高村氏)

 また、「ソフトウェアはフリーであるべきだ、プロプライエタリなものは駄目」という意見について同氏は、極端な話だとした上で、「腐ったOSSと良くできたプロプライエタリソフトがあった場合、将来性に期待してOSSを選ぶというのは、実情に合わない」と見解を示した。

Linuxのために総務省は何ができるか

 このような立場にあり、総務省としてLinuxまたはOSSに対して何ができるのかについて同氏は、「良いものは良い、悪いものは悪い」と言うことだと話す。

「すでに外形的な評価ではあるが『OSSは悪くない』とまではいった。良い悪いを言い切るためには、(コード評価を含めた)踏み込んだ評価が必要となる。現状では予算が取れていないが、こうしたことは先々やっていきたいと考えている」(高村氏)

 また、システムのベースとしてOSSを採用した場合、カスタマイズ部分のソースを可能な限りオープンにすることにも取り組んでいきたい話す。「バイナリを配らないシステムでも、オープンソースにすることは『論理的には』可能」と同氏。しかしこの部分については、実際に開発をした側の意向も確認する必要があるため、今後も模索していく必要があるとしている。

 政府としては、「選択肢」の増加を切望しているとはいえ、無条件でOSSを直接に応援することは難しい。しかし、評価の部分も含め、政府を「うまく使う」ことに価値はあるはずなので、政府の行為を多面的に活用してほしいという。

「政府を使うのは『タダ』。タダのものを使わないのは『損』です。でもすぐにヘソを曲げてしまう組織ですので、変な空中戦を仕掛けようとするのはやめたほうがいいでしょう(笑い)普通に私などに話をしにきてほしい」(高村氏)

参考:政府調達の際、受けるネタとは?

高村氏は政府調達に関連して、「あるものを購入する」よりも「作らせる」ほうが廉価であれば、そちらを選択するとし、政府調達の際に、そのような提案をぜひ行ってほしいと話す。そして、今であれば前述のような問題を解決するOpenOffice.orgのファイルフィルタであるとか、SAMBAの日本語周りは格好のネタだという。


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