「企業統治はもっと前向きに取り組むべき」と日本オラクルの新宅社長Interview(1/2 ページ)

相次ぐ不祥事が企業に「企業統治」を強く迫っている。その本質は、企業が持続的に成長していくために、その業務の運営を公開し、顧客、パートナー、社員、株主、あるいは地域社会が安心して見ていられるようにすることだ。「ツールを活用し、企業統治をポジティブに捉えていかなければ経営者としては失格」と日本オラクルの新宅社長は話す。

» 2004年07月01日 01時51分 公開
[聞き手:浅井英二,ITmedia]

 相次ぐ企業の不祥事は、コーポレートガバナンスの必要性を日本の企業に強く求めている。「企業統治」という訳語から、「統治する/される」といった窮屈なイメージを抱きがちだが、会計基準や企業改革法などはひとつの要素に過ぎない。その本質は、業務の運営を公開し、顧客、パートナー、社員、株主、あるいは地域社会が安心して見ていられるようにすることだ。会計基準や法律といった指標は時々に変わる。先ずは仕組みをつくり、指標の変化に合わせていくことが重要だ。もはや「自社の業務をソフトウェアに合わせるのか?」といった議論をしている時代ではない。待ったなしといえる。「ツールを活用し、企業統治をポジティブに捉えていかなければ経営者としては失格」と日本オラクルの新宅正明社長は話す。

日本オラクルを再び回復軌道に乗せる新宅社長

ITmedia 顧客情報の漏洩や製品欠陥の隠蔽など、企業の相次ぐ不祥事が世間を騒がせています。コーポレートガバナンスは米国で1980年代、国内においても1990年代に議論が始まったものですが、今ほどその強化の必要性を感じるときはありません。

新宅 コーポレートガバナンスは「企業統治」と訳されるのですが、この言葉からすると「統治する側/される側」という考えが先に立ってしまいます。経営者ですら「統治されている」と感じてしまうのではないでしょうか。

 しかし、コーポレートガバナンスは、企業が持続的に成長していくために必要なもので、ポジティブに取り入れていくべきだと思います。企業が存在していくうえでのステークホルダー(利害関係者)、具体的には顧客、パートナー、社員、株主、地域社会などになるのですが、彼らが企業の業務運営を安心して見ていられるための仕組みなのです。

 もちろん、チェックするための指標が必要で、会計基準から法律、業界のモラルや日本という国のモラルまでさまざまなものがあります。経営を見るポイントとしては、こうしたさまざまなものがあるのですが、最も大切なことは、業務運営を公開し、説明できるようにし、経営の透明性を高めることであり、コーポレートガバナンスの本質はそこにあります。

 かつては結果がすべてでした。企業は儲けていれば、株主はそれで良かったわけですが、今は違います。別の言い方をすれば、監視のメカニズムが細やかになってきています。

ITmedia 国際会計基準への対応ですか?

新宅 グローバリゼーションや証券市場のボーダーレス化がここまで進むと、もちろん「国際会計基準に照らして……」ということもありますが、しかし、それは一つの要素に過ぎません。さらに時とともに変わるので、企業はそれに絶えず合わせていかなければなりません。

 米Enronの不正会計処理問題をきっかけにつくられたサーベンス・オクスレー法(いわゆる企業改革法)からのプレッシャーもあります。経営者は財務諸表の適正性に対して宣誓することが求められているし、会計監査人は経営者が提出する内部統制の評価報告に対して保証することまで求められています。

 さらにきめ細やかさだけでなく、できるだけ早く結果を提示する必要もあるのです。こうなると、コーポレートガバナンスを支援できるツールを使っていく以外に方法はありません。

 日本オラクル自身、日本ではJP GAAP(米国の一般会計原則)を基準として財務諸表をつくるわけですが、連結決算ではUS GAAP(米国の一般会計原則)に従わなければなりません。すべてのビジネスプラクティスが米国の会計基準に合っていることが求められています。

 コーポレートガバナンスの仕組みは、「あったらいいね」ではなく、もはや「必須」なのです。先ず、待ったなしでその仕組みをつくり、会計基準や法律は時とともに変わるものなので、それに合わせていくべきでしょう。経営は何よりもステークホルダーのためにあるのですから。

企業統治のためのシェアードサービス

ITmedia これまでにもオラクルは、自ら最先端のテクノロジーを採用し、経営を変えていくショーケースとして顧客らに見せてきました。コーポレートガバナンスの仕組みという点ではどうでしょうか。

新宅 1990年代の終わり、Oracle Corporationにはデータセンターが40カ所あり、メールサーバが97台、ERPのインスタンスは65もありました。それではサポートコストが増大する一方でしたから、われわれはインターネット技術とOracleデータベースを活用し、企業のシステムを一つの環境で構築する「グローバル・シングル・インスタンス」を自ら実装することにしました。

 グローバル・シングル・インスタンスはサーバ統合を実現し、管理の効率化、コストの削減をもたらしますが、実はそれは一つの側面に過ぎません。Oracleでは、グローバル・シングル・インスタンスを実装するのと同時にプロセスの統合も図ってきています。

 多くのビジネスプロセスはITによって自動化できますが、しかし、それでもすべてではありません。会計にも人的な作業、つまり右か左かの判断や意思決定が必要になります。

 判断や意思決定には経営的なものと業務的なものがあり、後者はシェアードサービス化できます。シェアードサービスは、さまざまな部署で同じように行われている業務は1カ所に集中させ、グループ企業全体でそのサービスを利用するという効率化の手法なのですが、例えば、これよって不正も防止できるのです。シェアードサービスは、効率化のためだけでなく、コーポレートガバナンスのための経営手法とも言えます。コスト削減という側面だけで捉えない方がいいでしょう。

ITmedia 企業にとっては未曾有の変革期を迎えていると言えますね。

新宅 サーバ統合やシェアードサービス化は、業務運営の高度化を図ることができます。例えば、権限委譲を考えたとき、何を委譲するのか、何を委譲しないかを検討し、これをシステムに盛り込んでいけばいいわけです。ネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに捉えないと経営者は失格です。

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