Tech・Ed最後のセッションはアーキテクトのためのアーキテクトディスカッション

Tech・Ed 4日間の最後は、これも初めての試みとなるアーキテクトによるパネルディスカッションが行われた。題して「Architect Salon 〜羽ばたけ! 日本のアーキテクト!」である。

» 2004年09月11日 02時51分 公開
[ITmedia]

 9月10日、4日間にわたるTech・Ed 2004の全セッション最後を締めくくったのは、IT業界の著名なアーキテクトを招いて行われたパネルディスカッション、「Architect Salon 〜羽ばたけ! 日本のアーキテクト!」である。

 これはTech・Edが10周年にあたり、今までマイクロソフトがやってこなかったことで「何かトピックになるものを」と企画されたもの。「競合」と言われる技術のスペシャリストも招いて、アーキテクトのためのアーキテクトディスカッションが催された。

 パネラーは3名。いずれもアーキテクトと呼ぶにふさわしい人々だ。はじめに日本アイ・ビー・エム ソフトウェア シニア・テクノロジー・エバンジェリストの米持幸寿氏。それから日本総合研究所 事業化技術センター所長 細川努氏。そしてマイクロソフト デベロッパーマーケティング本部 エンタープライズ市場開発 Software Architectの萩原正義氏。

 この3人に、現在の仕事と技術面での関心事、そのほか問題意識などを聞く、別の言い方をするときれいごとでないアーキテクトの日常を聞く、という名目でディスカッションは進められた。司会進行はマイクロソフト デベロッパーマーケティング本部 テクノロジーエバンジェリズム部 アーキテクトエバンジェリスト 野村一行氏。

マイクロソフト デベロッパーマーケティング本部 テクノロジーエバンジェリズム部 アーキテクトエバンジェリスト 野村一行氏。

 はじめにパネラーの紹介から入る。それぞれの紹介が行われるが、IBM米持氏は、「私はアーキテクトではなく、社内的呼称からするとスペシャリストという立場なんです」とMS用語にジャブを入れる。

日本アイ・ビー・エム ソフトウェア シニア・テクノロジー・エバンジェリストの米持幸寿氏。
日本総合研究所 事業化技術センター所長 細川努氏。
マイクロソフト デベロッパーマーケティング本部 エンタープライズ市場開発 Software Architectの萩原正義氏。

 日本総研の細川氏も、.NETやJ2EEなど最新の技術動向の調査などを行っているとしながらも、「書くほうはJava系の話が多いです」と笑う。

 これらをうけたマイクロソフトの萩原氏は、「私の考え方、技術ポジションはマルチパラダイムです。一つのやり方ですべてを解決するのではなく、適切な組み合わせや最適な考え方を取り入れていくというスタンスです。」と抑え気味。

 手続き型とオブジェクト指向を例にとると、開発規模が小さい段階ではASP.NETやJSPといった手続き型が有利で、規模が大きくなればなるほど複雑度が増すため、オブジェクト指向の有効性が勝ってくる。だが、「技術は絶え間なく進歩している。そのためこうした比較は最終的には、もう少し広いスコープで本質的にとらえていかなければならない」と萩原氏。

 では、アプリケーションアーキテクチャがなぜ重要なのだろうか。米持氏は、「ある人が困っていることに対してこうすればうまくいくということを教えるものがパターン。アーキテクチャはそれとは異なり、もっと計画的に根本から積み上げられたもので、突き詰めると考え方や思考など、ものの見方や世界観にまでいってしまうかもしれない」とアーキテクチャを論ずる。

 現実問題として、アーキテクチャがこうしたさまざまな考え方であるとすれば、実際のプロジェクトでもこういったDOAあるいはSOAと他の「手法」を混在させて使い分けできる技術者が強いということになる。

 しかし、「現実的に全部オブジェクト指向でというのは難しい。エンジニアがそんなにいない」と米持氏。また萩原氏も「スタティックでデータ加工中心という業務システムであれば、当然DOAは優れている。しかし、とくに今後のビジネスにおいてはダイナミックな仕組みも必要になる。そうなると、コアはDOAでよいが、その外側はまた別の手法が必要になるのではないか」と指摘する。

 前出のパターンは効率よく開発を進めることができる手法だ。最近のパターンの動向はどんなものだろうか。

 細川氏は数々の著作をもつMartin Fowlerの示した3つのパターンについて説明する。

Transaction Scriptアーキテクチャ。
Table Moduleアーキテクチャ。
Domain Modelアーキテクチャ。

 米持氏はこれについて、「確かに絵は美しいが、実際やってみると無理がある。非現実的なんです」

 「機能の集合としてのオブジェクトと、その機能から利用されるデータのオブジェクトを作ってしまう。オブジェクト指向になっていても、ビジネスロジックとデータロジックが分離してしまうと再利用が難しい。こういったことを熟知してオブジェクト指向をうまく使いこなしている人は少ないです」と萩原氏も指摘する。

 では、こういった考え方や能力を養うために、アーキテクトとしてパーソナルの形成はどうすればよいのだろうか。

 米持氏の趣味は料理だという。いわく、「料理はプロジェクトマネジメントなんです。レシピには用意する素材とそれを作る手順が書いてある。システムにも本来そういうものがあればよいんですが」

 こうした話は尽きないが、時間が足りなくなってきた。最後にこれからのアーキテクトに向けて、3人からメッセージが贈られた。

 米持氏「日本人は誰よりも完成度の高いものを作ります。これを武器にしていきましょう」

 細川氏「それなりのプロフェッショナル意識を持てるということが、プロフェッショナルなアーキテクトの条件になると思います」

 萩原氏「アーキテクトとは技術の最高峰を目指すということです。世の中には、人間が足かせのために作ったさまざまなルールがあります。こうした常識にとらわれないことが大事なのではと思います」

 話題は次から次へと展開して行き、1時間15分というセッション時間はあっというまに過ぎてしまった。短時間で駆け足的になった感も否めず、聴衆もやや物足りなさを覚えているようだったが、最後に拍手が舞台に向けて贈られた。Tech・Ed 2005では、もっと時間を設けてさらにスペシャルなプログラムにならないだろうか。誰もがそう思ったに違いない。

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