月刊「OpenOffice.orgコミュニティ通信」――準備号dev Linux

OSSのオフィススイートの代表格OpenOffice.org。このコミュニティ動向を探るべく、コアメンバーの可知 豊氏による連載を開始。

» 2004年10月20日 16時53分 公開
[可知 豊,ITmedia]

 この連載「OpenOffice.orgコミュニティ通信」では、このOpenOffice.orgとコミュニティにまつわる話題を毎月お届けします。読者には、OpenOffice.orgを取り巻く息吹を感じていただければと思います。今回は準備号として、コミュニティ概要と、近況をお伝えします。

 OpenOffice.org(オープンオフィス ドット オルグ)は、オープンソースで開発されるオフィススィートで、次のような特徴を持ちます。

  • ワープロ、表計算、プレゼン、ドローツールなどを統合している。
  • Microsoft Officeと高い互換性がある。
  • Windws版だけでなく、Linux、Solaris版などがある。
  • 日本語だけでなく、英語、中国語、韓国語など多くの言語に対応している。
  • 無償で入手でき、誰でも自由に利用できる。

 サン・マイクロシステムズとソースネクストが販売する「StarSuite」は、OpenOffice.orgと同じソースコードを基にしているものです。

 日本語フォント、マニュアル、サポートサービス、ユーティリティなどが付加された製品と考えればよいでしょう。お互いは、完全なファイル互換を持っており、操作も同じになっています。

 また、OpenOffice.orgは、同名のOpenOffice.orgコミュニティにより開発されています。日本語版も、このOpenOffice.orgコミュニティで開発され、サンは、最も大きなスポンサーのひとつです(OpenOffice.org1.1とStarSuite7.0の機能比較)。

1.1リリースによる大きな流れ

 OpenOffice.orgは、2003年10月にバージョン1.1がリリースされ、ようやく日本語環境でも実用的に使えるようになりました。普及に弾みがついたといえます。

 現在、多くのLinuxディストリビューションで採用されており、ソースネクストが販売するStarSuite7.0のリテール版も好調なようです。

 OpenOffice.orgの最新版は、1.1.2です。現在、このバグフィックス版である1.1.3のリリースを控えています。すでに英語版がリリースされており、日本語版についても、日本ユーザー会でQA(品質確認)テストを行っています。また、次期バージョンである2.0の登場も間近です。すでにアルファ版が公開されており、来年3月に正式リリース予定です。

新版2.0のリリーススケジュール

- 2004年8月 2.0 UIフリーズ。ローカライズ・ドキュメント作成開始。

- 2004年12月 2.0 ベータ版。

- 2005年1月 2.0 開発終了。次期版に向けて、ソースコードをブランチ。

- 2005年2月 2.0 リリース候補。

- 2005年3月 2.0 正式リリース。

 現在アルファ版として、OpenOffice.org 1.9.m56が公開されています(2004年10月20日現在)。

OpenOffice.orgにまつわる活動状況

 日本ユーザー会は、Webサイトでの情報発信のほか、メーリングリストや掲示板を使い、利用者同士の情報交換に努めています。

 また、本家OpenOffice.orgコミュニティとの情報交換にも積極的に参加しています(関連ニュース記事)。さらに、有志により、各地のオープンソース関連イベントにも参加しています。このほかにも、多くの個人や団体が、OpenOffice.orgを取り巻く環境をよりよくするために活動しているのです。

9月4日、オープンソースカンファレンス2004に参加

 東京の日本電子専門学校を会場にして開催された「オープンソースカンファレンス2004」に参加しました。多くのセミナーが開催され、各コミュニティによる展示ブースも設けられました。

 日本ユーザー会は、KNOPPIX日本語版を開発している産業技術総合研究所 情報処理研究部門と共同で、「ハンズオンセミナー:KNOPPIX + OpenOffice.orgによる充実のデスクトップ環境」を開催しました。また、OpenOffice.org 2.0のために日本のコミュニティとしてできることを探るBOF(誰でも参加できるミーティング)を行いました。

 展示ブースでは、多くのプラットフォームで動作するOpenOffice.orgをデモンストレーションしました(関連リンク)

9月4日、デベロッパーズガイド日本語版公開

 オープンデスクトップ推進協議会から、「OpenOffice.org Developer's Guide」の日本語訳が公開されました。これは、OpenOffice.org SDKに収録されているドキュメントで、OpenOffice.orgを利用したソフトウェア開発について詳しく解説されています。

 このドキュメントの翻訳は、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の2003年度オープンソフトウェア活用基盤整備事業の支援を受け、「オフィススイートの機能拡張」プロジェクトの一部として行われました(オープンデスクトップ推進協議会)

9月14日、日本語ローカライズメンバー募集

 OpenOffice.org 2.0のリリースに向け、サンと共同でユーザーインタフェース上の翻訳を行うため、翻訳プロジェクトのメンバー募集が行われました。

 これまでOpenOffice.orgの日本語翻訳は、StarSuiteの日本語翻訳の成果をOpenOffice.orgコミュニティ側に取り込む形で行われていました。それを次期バージョンからは、コミュニティとサンが共同作業として行う予定です。

9月22〜24日、OpenOffice.org Conference 2004開催

 ドイツのベルリンにて、「OpenOffice.org Conferance 2004」が開催されました。OpenOffice.orgの開発者を始め、ビジネス利用者や各国のローカルコミュニティのメンバーなどが集まりました。日本からは、日本ユーザー会のメンバーなど6名が参加しました(関連ニュース記事)

9月29〜30日、LinuxWorld C&D Tokyo2004.orgパビリオンに参加

 東京・新宿NSビルにて開催されたLinuxWorld C&D Tokyo2004にて、OpenOffice.orgの展示などを行いました。NTTコムウェア提供の「.orgパビリオン」に参加したものです。来場者からの質問に答えたり、OpenOffice.org2.0アルファ版のデモを行いました(日本ユーザー会イベント情報ページ)

9月30日、非公認OpenOffice.orgハッカーズガイド日本語版公開

 OpenOffice.orgをどのようにビルドするのか? 改良コードをコミュニティにフィードバックするにはどうすればいいのか? このような疑問に応えるべく、配布されたドキュメントです。コミュニティに参加したいと希望する有志に向けて公開されました。日本語版は、矢吹幸治さんと中本崇志さんによって翻訳されています。

 なお、タイトルが「非公認……」となっていますが、この日本語訳が非公認なのではありません。オリジナルドキュメントのタイトルが「Unofficial」となっているためです(非公認OpenOffice.orgハッカーズガイド日本語版)

10月1日、プロジェクトオーナーの交代

 「OpenOffice.org Japanese Native-Lang project」のプロジェクトオーナーが、中田真秀さんから巳鳴 愁さんに交代しました。

 中田氏は、Japanese Native-Lang projectの立ち上げ時から、本家OpenOffice.orgとのコミュニケーションに尽力された方です。今後は、開発プロジェクトのコーディネータとして引き続き活躍いただくことになります。今まで、ご苦労様でした。ありがとうございました。

 巳鳴さんは、まだ学生ですが、これまでもユーザー会の中心メンバーとして、CD-ROMプロジェクトのコーディネータなど積極的に活動してきました。今後の益々の活躍に期待しております。

 さて、10月には次の2つのイベントが控えています。

  • 10月中旬、1.1.3日本語版の正式リリース
  • 10月22〜23日、関西オープンソース2004

 IT関連イベントの多くが関東を中心に行われる中、関西で行われるイベントです。「関西コミュニティ大決戦」「BSD Conference Japan 2004(23日のみ)」も同時開催されます。

 そして、今年も、本家OpenOffice.orgのコミュニティマネージャであるLouis Suarez-Potts氏が来日されます。関西方面で興味のある方の参加を願います(10月22〜23日、会場:大阪産業創造館、http://k-of.jp/)。

学校や官公庁で導入するメリット、デメリット

 地方自治体でIT導入担当者の方から、日本ユーザー会に次のような問い合わせをいただきました。

 「OpenOfficeを何台かの端末で使用させていただいておりますが、行政事務や学校教育において、一太郎やMS OfficeからOpenOffice.orgに統一した場合、どのようなメリットやデメリットがあるでしょうか?」

 この質問に答えるため、日本ユーザー会のメーリングリストで意見を募集したところ、多くの回答が寄せられました。また、そこから派生した議論は、かなり続きました。

 質問では、"OpenOffice.orgに統一した場合"と問われていますが、本当に統一するのが現実的なのかという議論も盛り上がりました。なおディスカッションの内容は、こちらで閲覧できます。

 現状では、「OpenOffice.orgに100%統一する」というのは、まだ大変なことかもしれません。来年度予算では、例えば「50%をOOo(OpenOffice.orgの略称)への移行に伴う費用、50%をMS Officeや一太郎に関する費用」などとし、全体での予算総額を削減していくのも手です。数年掛けてオープンソースとの共存を確立させていこう、というのが現実解ではないでしょうか。

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