独自路線でミッドレンジに注力するターボリナックス

「オープンソース・ソフトウェアで対応可能な部分で勝負」とミッドレンジの領域でビジネスを進めるターボリナックスは、Linuxが元来持っていたメリットを最大限に生かそうとしている。

» 2005年03月14日 20時49分 公開
[ITmedia]

 ターボリナックスは、2004年3月に親会社がSRAからライブドアに代わったことで(関連記事参照)、ビジネスのスピード感を増している。

 2004年4月には、米Microsoftとライセンス契約を結び、Windows Mediaフォーマットをサポートした「Turbolinux 10 F...」(関連記事参照)を、同10月には、Turbolinux 10 Desktopで採用されている「eDesk」を拡張したユーザーインタフェースを備え、用途を絞ることでLinuxの敷居を下げた「ターボリナックス ホーム」を発表した(関連記事参照)。ターボリナックス ホームでは、当時リリース前だった「ATOK for Linux」がバンドルされていたことや、「Linux普及委員会」などの存在が話題を呼んだ。

ミッドレンジを明確に志向するTurbolinux 10 Server

 一見するとコンシューマー路線を走っているように思われがちな同社だが、売り上げの多くはサーバ製品が占めている。

 そのサーバ製品のラインアップには、2003年11月に販売終了となった「Sun Cobalt」の後継として2004年1月にリリースされたアプライアンスサーバOS「Turbolinux Appliance Server 1.0」などもあるが、注目したいのは、2004年10月にリリースされたミッドレンジ向けLinuxディストリビューション「Turbolinux 10 Server」(以下10S)だろう(関連記事参照)。同製品はTurbolinux 8 Server(TES 8)の後継としてそれまでコードネーム「Celica」の名で開発が続けられていた。

 10Sの主な特徴としては、Linuxカーネル2.6の採用とSELinuxの採用が挙げられる。特にSELinux関連は、SELinuxの構築・運用支援ツールであるSELinux/Aidも標準で同梱されている。とはいえ、Linuxカーネル2.6やSELinuxは最近のエンタープライズ向けLinuxディストリビューションであればひととおり備えてきはじめているので特別際だった優位点ではない。

 では、10Sの最大の特徴は何か? それは価格である。パッケージ単体の価格は3万9800円。この価格には5年間のセキュリティアップデートも含んでおり、一般的な商用Linuxディストリビューターのようにアップデートパッケージ取得のためのコストが必要ない。つまり手厚いサポート契約を必要としないなら、3万9800円で5年間は使うことができるわけだ。

 詳細なコスト比較は後の特集に譲るが、例えばRed Hat Enterprise Linuxの場合、10Sの競合製品となるRed Hat Enterprise Linux ES(RHES)の年間サブスクリプションは9万9800円である。レッドハットのサブスクリプション契約にはセキュリティアップデートを行うためのRed Hat Enterprise Networkも含まれているため、10Sと同様の条件でコストを算出しても5年間で50万円近くになる(継続割引などを考慮せず)。

 ほかのLinuxディストリビューターの多くがエンタープライズという名をマーケティング的な意味合いで利用し、より高価格な製品セグメントに移行するなかで、Linuxが元来持っていた低導入コストというメリットを生かしつつ、主戦場であるミッドレンジの領域を継続してサポートしていこうとすることが同社の戦略であるといえよう。2005年2月には、IBMが自社のミッドレンジ・サーバ「IBM xSeries」3モデルで、10Sをサポートすることを発表しており、同社にとっては強力な援軍となっている。

オープンソース・ソフトウェアで対応可能な部分で勝負

 ターボリナックスは、ミッドレンジには10Sを用意したが、ハイエンドに関してはTurbolinux Enterprise Server 8のリリース以後、主だった動きがない。

 また、64ビット環境への対応も比較的緩やかだ。ほかのLinuxディストリビューターがこぞってEM64T/AMD64に対応した製品をリリースする中、ターボリナックスはようやく「Turbolinux 10 for EM64T/AMD64」のテクニカル・プレビュー版(コードネームは山頭火)を2005年2月から公開し始めた。

 これは同社の取り組みが遅れたためではない。そもそも同社は2003年にはすでに「Turbolinux 8 for AMD64」という製品をリリースしている(Linuxカーネルは2.4系)。比較的64ビットOSのノウハウを持ちながら、いまだテクニカル・プレビューにとどめているのは、Linuxカーネル2.6系を採用した64ビットOSを商用製品として販売するにはまだ問題があると判断したためだ。もちろんその理由の中には、現時点で主要アプリケーションの64ビット対応が整っていないことも挙げられよう。

 ターボリナックスの代表取締役社長兼COOの矢野広一氏は、10Sについて、「エンタープライズが第一の主眼ではない。ミッドレンジ・サーバ製品なのだ」と話している。これは同製品がハイエンドの領域で使えないという意味ではない。ハイエンドな領域になると、ミドルウェアに商用製品が使われることが大半である。そうしたミドルウェアの対応プラットフォームとなるには、ミドルウェアベンダーから認定を受ける必要がある。相応の時間とコストがかかるこのプロセスはビジネスのスピード感を削いでしまう。

 そのため、こうした「こちらがどうあがいても仕方ないこと」(矢野氏)に対してリソースを割くくらいならば、オープンソース・ソフトウェアで対応可能な部分で勝負したほうがよい、というのが同社の基本的なスタンスである。そのスタンスがミッドレンジ志向へとつながっているのである。

アジア圏での確固たる地位の確立に

 こうした堅実なビジネスにより、2004年度の黒字を達成した同社だが、国外での成長も見逃せない。中国子会社であるTurbolinux Chinaは、2004年4月に上海市静安区の電子政府プロジェクト、同6月に中国鉄道システム省の国鉄道綱システム、同7月には中国モバイルの基幹システムと大型の案件を立て続けに獲得するとともに、高いシェアも有している。

 Turbolinux Chinaも初の年間黒字を達成するなど順調な様子だが、だからといって盤石の地位であるともいえない。中国のLinux市場は群雄割拠とでも言うべき状態にある。Red Flag SoftwareやSun Wah Linuxなど、各地域の政府と密接に結びついたディストリビューターも多く存在しているほか、中国政府がナショナルセキュリティや自前の技術を持った企業の育成に注目していることもあり、今後も圧倒的なシェアを維持できるかは注視しておく必要があるだろう。

 また、アジアのほかの地域に目を向けると、米HPなどの大手ハードウェアベンダなどとの協業により、アジア各国へのライセンス販売が順調で、海外売上が対前年度比約280%増となっている。

 ターボリナックスはレッドハットやノベルといったワールドワイド展開をしているディストリビューターのように全世界のリーダーになろうとは思っていない。あくまでアジア圏を確実にカバーしようとしていることが、結果的によいビジネスとなっているといえる。

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