ムーアの法則は死んだ?

ムーアの法則が永遠には続くことはあり得ないが、エレクトロニクスがすぐにナノテクに取って代わられることはない。ムーアの法則40周年に際し、ゴードン・ムーア氏はこう語った。(IDG)

» 2005年04月14日 18時13分 公開
[IDG Japan]
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 ムーアの法則は死んだ――この法則を考案したゴードン・ムーア氏はそう言っている。

 1965年の昔に明らかになり、その後IT業界の脈動となってきたこの予測は、いずれ終わるだろうとムーア氏は語った。同氏は今はIntelを引退している。

 「集積回路に搭載されるトランジスタの数は2年おきに倍になる」とするこの法則が公表されてから40年、ムーア氏は4月13日朝に「この法則が永遠には続くことはあり得ない。指数関数の性質は、突き詰めていけば最後には災難が起きるというものだ」と述べた。

 「(トランジスタの)サイズについて言うと、根本的な限界である原子のサイズに近づいているが、そこにまで達するのは2〜3世代後のことだろう――しかし、これまでわれわれに分かっていたのはそこまでだ。根本的な限界に達するまでにはあと10〜20年かかる。そのときまでには、もっと大きな半導体を作り、数十億のトランジスタを集積することができるだろう」(ムーア氏)

 ムーアの法則がなければコンピューティングはもっと違っていたのか、という質問に対し、同氏は次のように語った。「それは分からない。この法則は非常に便利な指針になったと思っている。初めはそれほど影響はなかったが、私がこの法則の影響力を初めて目にしたのは、日本がメモリ事業に参入してきた時だ。当時、半導体業界はおおむねランダムな方向に動いていたように思う。しかし日本勢はメモリに参入してくるや、計画を立てて主導的な地位を獲得することに成功した」

 「この点で、われわれがその(ムーアの法則の)トレンドに気づいていなかったら事態は違っていただろう。私はラッキーなことに、当時ハイテク業界の前線にあったFairchildに勤めており、たいていの人よりも物事が見える立場にいた」

 ムーア氏(当時Fairchildで研究開発責任者を務めていた)を有名にした1965年4月のElectronics誌の記事が発行された記念日に、同氏はナノテクノロジーがすぐにエレクトロニクスに取って代わることはないとの考えも示した。

 「集積回路は1000億ドルを超える累積投資の結果だ。(ナノテクが)小さな基盤から完全な姿で生まれてきて、それに取って代わることはあり得ない。エレクトロニクスは成熟産業だ。われわれは既に、100ナノメートルよりもはるかに小さな回路に取り組んでいる。100ナノメートルはナノテクのスタート地点と見られているが、われわれは既にそこに達しているのだ」(ムーア氏)

 「一から原子を1つ1つ組み立てるのは、また方向の違う取り組みだ。それがICに取って代わることはない。ICは生物学的分析を迅速に行うDNAチップ、エアバッグのマイクロマシン、航空電子工学、マイクロ流体――化学研究室をチップに載せたようなものだ――などさまざまな分野に応用されている」

 「エレクトロニクスは基本的な技術であり、直接取って代わられることはないだろう。小さなマシンを作るのと、そのマシンを数十億単位で接続するのとでは訳が違う。ナノテクには影響力があるだろうが、近い将来エレクトロニクスに取って代わるものではない」

 マスマーケットコンピューティングを予見していたかとの質問に対し、ムーア氏は過去を振り返ってこう答えた。「当時の記事の中で、私はそれを予想していた。だがどんなものになるかは分からなかった」。同氏は、ホームコンピューティングは家庭でレシピを保存するなどの用途に使われる程度の、小さな市場になると考えていた。その結果、そのころ同氏が勤めていたIntelは、その道を追求しなかった。

 ムーア氏はまた、軍事利用されている技術に冷笑を浴びせた。軍は1960年代を通じて、コストが高かった時代にコンピューティングの進歩を促進し、ほかの方法では実現不可能だった機能をコンピュータに与えたことは同氏も認めた。「その後、民間企業のタイムフレームが軍事システムの変化のペースよりもずっと速くなり、軍はそれほど影響力を持たなくなった。彼らは近代軍事システムの中で、時代遅れのエレクトロニクスを使っている」

 最後に、向こう40年にわたって通用する新しい法則はあるのかと聞かれた同氏は、こう答えた。「私はこの法則で得た名誉に甘んじようと思っている。今は新しい予測を作るところまではいかない――『ムーア第2の法則』と呼ばれるものは幾つかあったが、どれも私の功績として認めてもらえていない」

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