AppleがIntelを交渉の材料にするわけMagi's View

AppleがIntel製チップに乗り換えるというニュースは、素のPowerPCよりCellプロセッサのほうがIBM社内の優先度が高いことに対するAppleの苛立ちの表れとわたしは見ている。

» 2005年05月30日 13時04分 公開
[Melanie-Hollands,IT Manager's Journal]
SourceForge.JP Magazine

 AppleがMacintoshへのIntel製チップの搭載をめぐって半導体メーカーのIntelと交渉中であるとウォールストリートジャーナルが報じている。現在AppleはIBMのPowerPCチップを採用している。

 Apple Computer(Apple)がIntel製チップに乗り換えるという可能性は、かねてから取り沙汰されているが、業界の無責任なうわさ話の域を出ない。Intel製チップの採用を真剣に検討しているのか、まだ予備交渉の段階なのか、Intelへ完全に移行するのではなく、IBM製チップとIntel製チップを併用するつもりなのか、Appleの真意ははっきりしない。

 わたしはこの記事を、素のPowerPCよりCellプロセッサのほうがIBM社内の優先度が高いことに対するAppleの苛立ちの表れと見ている。CellプロセッサはPowerPCをMacintosh用にチューニングしたものではなく、ビデオゲームやDVD向けにチューニングしたものだ。これはAppleが求めているビデオの方向性とは異なる。

 そうなると、Intelと交渉し、その情報をメディアに流すことが戦術上最も効果的なAppleの反撃になる。そのニュースは、IBMにとって「Appleとの取引がいつまでも続くと思ったら大間違いだぞ」という警告になる。これはデルの戦術と似ている。デルはIntel製チップを採用しているにもかかわらず、AMDと交渉した。その直後、引き続きIntel製チップを100%採用するという意思を表明したとたんにIntelから大幅な値引きを勝ち取っている。

 結果的には、デルがIntelに対して、有利な条件を提示しなければ乗り換えもあり得ると警告を発した形になる。Linux PCを発売したときもデルは同様の戦術を追求したとわたしは見ている。そのときの交渉相手は唯一のOS供給元であるマイクロソフトだった。

 新聞各紙はAppleがIntel製チップを採用することもあり得ると見ている。これは、Intel(および現在は一応休戦中のMicrosoft Windows)にまつわるすべてを忌避する長年にわたる方針をAppleがここにきて転換したという見方だ。かつてはリトルエンディアン対ビッグエンディアンの問題がチップの乗り換えを阻んでいたが、いまならこの問題も解決できるだろう(まだこれが問題であるとしての話だが)。一方、IntelがAppleにチップを供給することになれば、PCではなく、Macintoshにとって重要な命令セットに合わせてペンティアムをチューニングするためのノウハウが得られる。

 AMDに主導権を奪われる脅威におびえるIntelとしては、多額の資金を費やしてでも、2〜3%というAppleのグローバル市場のシェアを積極的に取り込もうとするかもしれない(グローバル市場の2〜3%は米国市場の5〜6%に相当するが、その部分の利益率はおそらく他の部分より高いだろう)。AppleとIntelの交渉が本当に行われていて、それが本格的な交渉であるとすれば(可能性は低いと思うが)、Intelは、PCユーザーとMacintoshユーザーがますますビデオ指向の度合いを高めるアプリケーションへ移行する中で、これから追求すべき開発の方向に関する情報を入手できる。交渉の結果、何も起こらなかったとしても、貴重な情報がただで手に入るわけだ。

 わたしがAMDの社員だったら、この機会に乗じて、IntelがPCの市場に十分な注意を払っていないと顧客のPCメーカーに思い込ませるような方策を考えるだろう。「Intelは本業をおろそかにしている」と思わせるわけだ。

Melanie Hollandsはニューヨーク市在住のITMJのビジネスアナリスト


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