「感じる義手」は“ルークの義手”にどこまで近づけるか(1/3 ページ)

映画「スターウォーズ/帝国の逆襲」のラストシーンで、ルーク・スカイウォーカーが義手を装着しているシーンをご存じだろうか。想像するに“ルークの義手”は自分の手と変わりない感覚を得られるに違いにない。そのような「感じる義手」を目標として、人間の神経と義手とを接続する神経インタフェースの研究が進められている。

» 2005年11月15日 18時07分 公開
[中村文雄,ITmedia]

 神経インタフェースを10年以上前から研究しているのは、東京大学情報理工学系研究科の満渕邦彦教授の研究室。現在、“ルーク”の義手のような「感じる義手」、次世代の神経インタフェースの開発を進めており、その先進性は国内外から注目されている。そのほかにも「Ratcar」プロジェクト、人工心臓制御など神経インタフェースを用いた数々の実験を行っている。

 「感じる義手」は、触られた義手の触感が被験者に伝わるシステム。義手に触ると、その触感の信号が腕に刺した神経インタフェースから伝わり、被験者は自分の手の一部が触られたように感じる。義手を強く触られたときには、被験者も強く感じるように調整されている。

「感じる義手」の実験風景。医師の立ち会いのもと、週に1回程度のペースで行われている

 「感じる義手」の神経インタフェースは、直径125μm(マイクロメートル)のタングステンの微小針。エポキシ樹脂で被膜してあり、神経の信号を拾う先端部分は数μm〜100μm程度、タングステンが露出している。実験の手順は次の通りだ。

  • 医師が超音波診断機を見ながら、タングステン針を手の感覚神経(正中神経)が通っている腕の部位に差し込む
  • 手のひらと指を探りながら刺激すると、タングステン針で神経から採取した電気信号が、その刺激の強弱と同調する「刺激位置」が見つかる
  • その同調した位置を刺激位置として実験に用いる
  • その後、逆にサンプルとなる電気信号をタングステン針から神経に送信する
  • タングステン針の位置にもよるが、多くの被験者は直径5ミリ程度の柔らかい筆で軽く押されたような感覚を刺激位置に感じる
  • 義手の触覚センサーからの電気信号をタングステン針に送信する設定処理を行う
  • 義手の触覚センサーを強弱をつけながら触る
  • 被験者は、触覚センサーを触った強弱の感覚を、刺激位置に感じる。

 ちなみに実験で使用される電気信号はパルス幅250マイクロ秒、パルス周波数10〜100Hz、数百mAの電流が用いられる。刺激の強さは電気信号のパルス回数に比例するが、1秒間のパルス回数が80回を超えると触覚の強さが上限になり、それ以降ほとんど変化しない。

 タングステン針を刺す正中神経は手と指の感覚を伝える神経で、直径約6ミリの中に約1万数千本の神経が走っている。実験では、その中の数本の神経を対象にして電気信号を送受信していることになる。微弱な電流を拾っているため、少しでもタングステン針の位置が変わると、実験はやり直しとなる。

 満渕研究室で特任講師を務める鈴木隆文博士は、「被験者自身が別の手で義手を触ると、自分の手で触った強弱の感覚を、『刺激位置』で感じることができる。そうすることで、実験の内容をさらに実感できます」と実験の様子を説明する。

 また、「感じる義手」とは反対に、運動神経の電気信号をタングステン針の神経インタフェースから採取して、義手を動かす実験も行っている。指の運動神経の信号を針筋電の信号として4本のタングステン針から採取することで、義手の指を動かすことに成功している。

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