スーツを毛嫌いするなMagi's View

オープンソースの世界にやってきたばかりのCEOに忠告したい。知らないことまで知っていると印象付けることはやめるべきだ。そうすれば、気難しい住人も少しはあなたの存在を大目に見ようという気になるかもしれない。

» 2006年01月20日 09時00分 公開
[Tina-Gasperson,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine

 今や、技術には疎いが本当に頭のいい経営者は、オープンソースソフトウェアを販売したり、積極的に業務に導入したり、またはその両方をしたりする企業を設立する時代である。ここで面白いのは、多くの場合、こういった頭のいい経営者は、自分が売っているオープンソースソフトウェアの技術や使い方に関する用語をろくに知らないという事実を隠したがる。なぜ隠すのだろうか? “オープンソースコミュニティー”は十分に成熟した。FOSSを推進しようとする人々が、ハッカーではないという理由から弾劾されることはなかろう。むしろ感謝され、歓迎される。

 数週間前のことだが、オープンソースソフトウェアの新企業の創設者にインタビューをした。その会社のプレスリリースに、オープンソース技術を“フルに導入”し、支持すると強調してあったからだ。Webサイトで創設者の経歴を見ると、この新会社に“オープンコミュニティーの精神”を持ち込んだと書いてある。この会社は、オープンソースソフトウェアの販売はしないが、LAMPソフトウェアスタック(Linux、Apache、MySQL、PHP)で全面的に業務を構築した企業であり、この創立者にとって2番目のベンチャーである。最初のベンチャーはまだ存続していて、Linuxクラスタ、カスタムハードウェアの販売からLinuxアプリケーション開発までOSSソリューションを手掛けている。

 Unix、あるいはLinuxのプログラミングかシステム管理の経歴があるのだろうと予想したが、いざ話してみるとすぐにそうではないと分かった。コンピュータサイエンスの経験はない。創業者の経歴をいろいろと尋ねていくうちに、好奇心が大いにそそられた。経歴を知られるのを彼は嫌がったが、これはいいネタになると私は感じた。Linuxのビジネスにとって素晴らしいニュースだからだ。彼がLinuxをどこでどうやって発見したか、それはこの際どうでもいい。ここで一番面白いのは、彼がこのオペレーティングシステムの技術は理解しないながらも、そのマーケットの将来性には気がついたという点である。思うに、この話のハイライトは、オープンソースの将来性を理解するのにコンピュータマニアになる必要はない、ということだろう。

 だが、前にも書いたように、彼は知られたくないのだ。全社員の机の上でLinuxが利用されているのに、創業者がそこで使われてるディストリビューションが何であるかも、社員が使っている生産性向上ソフトウェアがどういう種類のものであるかも知らず、誰かに尋ねないと分からないということを。自分の個人用ラップトップでは、仕事のときにいつもWindowsをブートし、Linuxパーティションはインターネットをブラウズするときのためだけに作った。これも彼が隠しておきたい事実である。でも、私は気にならない。このインタビューで唯一当惑したのは、彼が“オープンコミュニティーの精神”を良く理解しているという印象を与えなければならないと思っているらしいことだった。Fedora Coreの名前さえ知らないくせに、ちょっとばかり誠実さに欠けないだろうか。

 この経営者が“部外者”視されるのを恐れる理由は、コンピュータマニアではない別のCEOが果敢にも独自のLinuxディストリビューションの販売に挑んだときに何が起こったか覚えているからだろう。マイケル・ロバートソン氏は、オープンソースソフトウェアコミュニティーの多くのメンバーから冷ややかに迎えられ、逆風と格闘しながらLinspireを正当なGPL提供物として粘り強く売り込んだ。今でこそロバートソン氏とLinspireはかなりの成功を収め、オープンソースコミュニティーの一員として認められている。それができたのは、おそらくロバートソン氏の意思が極めて固く、敵対者に屈しなかったからだが、この数年のLinuxの勢力拡大のおかげでLinux信仰が以前ほど頑迷でなくなったのも一因だろう。

 “コミュニティー”の忠実な信奉者であることを最初に証明せずに、ただLinuxやそのほかのオープンソースソフトウェアを利用しようとする企業や経営者、そういった手合いを罵り、信用を傷つけることに熱心なLinux至上主義者の1人だった私だが、今はかなり鷹揚だ。FOSSがフリー市場で繁栄するのを見る方がずっと良い。誰がそれを実現しようがいいではないか。宗教的寛容、包含主義と呼んで欲しい。あるいは、単に“スマートビジネス”と呼んでもいい。Linuxがほかのオペレーティングシステムのシェアを奪うにつれて、保守的な頑迷さでスマートビジネスを怯えさせて去らせようとするコミュニティーの傾向は弱まるだろうか。例えそうなったとしても、オープンソースの世界にやってきたばかりのCEOに忠告したい。知らないことまで知っていると印象付けることはやめるべきだ。そうすれば、気難しい住人も少しはあなたの存在を大目に見ようという気になるかもしれない。

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