2007年問題をAIで解決する構造改革としての2007年問題(1/2 ページ)

2007年問題の本質は企業の根幹となるシステムを特定の技術者に依存してきた体質にある。それをカバーする技術として、かつて一世を風靡したエキスパートシステムに注目してみてはいかがだろう。

» 2006年01月26日 08時00分 公開
[谷川耕一,ITmedia]

 谷川耕一

 オンラインムック「構造改革としての2007年問題」

 団塊世代の退職によって人材やスキルが大量に流出すると言われる2007年問題を、ベンダーやシステムインテグレーターの一部は、レガシーからオープンシステムへ移行の新たなきっかけとしてとらえている。だが、2007年問題の本質は、レガシーシステム自体というよりは、レガシーの構築、運用を特定の技術者に依存してきた、という企業の体質にあると考える方が理にかなっている。

 前回も述べたように、IT分野において2007年問題対策は緩やかに始まっている。そして、問題がより深刻なのは、製造業などにおいて、「専門家」と呼ばれる団塊世代の技術者が現役で活躍している現場だ。

かつて一世を風靡したエキスパートシステム

 ところで、かつてエキスパートシステムというものが一世を風靡したことをご存じだろうか。エキスパートシステムは、特定分野に特化した専門家の知識をデータベース(知識ベース)に蓄積し、推論を行い、専門家の正確な判断や操作手順をシステムで実現する人工知能(AI:Artificial Intelligence)の1つだ。

 1976年に米スタンフォード大学医学部で構築された感染症治療診断支援システムの「MYCIN」が、世界初のエキスパートシステムと言われ、その後、1980年代には爆発的なブームが訪れる。このころ、ニューラルネットワークやファジー理論なども実用化されるようになり、エキスパートシステムと併せてAIの一大ブームが訪れることになった。

 エキスパートシステムには幾つかの種類があるが、代表的なのは「診断型」と「設計型」だ。

 診断型の代表はMYCINなどの医療分野でよく利用され、「if 〜 then 〜」といった知識とルールを用いて専門家と同等の判断をシステムが下すというもの。一方、設計型は、与えられた条件から最適な設計解を導き出すもので、主にLSI設計の分野などで開発された。

 このほかにも、プラント運用などのスケジューリングシステムなど、さまざまな分野の専門家の業務を支援するシステムとして開発された。

 とはいえ、1980年代のエキスパートシステムは、専門家の作業を代替するという理想像には至らなかった。なぜなら、当時のコンピュータリソースでは、専門家の有する専門知識をすべて知識ベースに蓄積することは容易ではなかったからだ。また、仮に大量の知識ベースを構築できたとしても、そこから解を導き出す推論エンジンのパフォーマンスも十分とは言えなかった。それだけではなく、知識をコンピュータで扱えるデータとして表現することも、得られる回答を検証することも、それぞれに多大な労力を要したのである。

 もちろん、成功していたエキスパートシステムの事例もあった。しかし、専門家の高度なスキルが十分に反映されたものはまれだった。エキスパートシステムを構築する技術者を当時は「ナレッジエンジニア」と呼んでいた。多くのエキスパートシステムは、ナレッジエンジニアが構築している過程で、どのような答えを導き出すかがある程度予測できてしまう程度の、単純な判断しか行えないものがほとんどだったのだ。

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