地方自治体における不法投棄の今――島根県の事例(1/2 ページ)

廃棄物の不法投棄はいっこうに絶える気配がない。その手口も悪質かつ巧妙化しており、一層の監視の強化が求められている。そうした中、島根県では「原因者の究明に繋がる対策」を推進すべく、新たなシステムを稼働させた。そのシステムに迫る。

» 2006年02月20日 11時57分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
寂しい山道の途中、ガードレールの下をのぞくと多数の一般廃棄物が不法に投棄されていた

 上記の写真は島根県の山道で目にした不法投棄の現場だ。産業廃棄物、一般廃棄物にかかわらず、廃棄物の不法投棄はいっこうに絶える気配がない。近年ではその手口も悪質かつ巧妙化しており、数字として表れる以上にその事態は深刻なものとなっている。

 島根県はこうした不法投棄対策を新たなシステムで強力に推進しようとしている。島根県環境生活部廃棄物対策課指導グループの西浩幸氏は、「不法投棄に対する特効薬はない」としながらも、今回導入したソリューションが、不法投棄そのものに対する県民の意識を大きく変えるものになるかもしれないと期待を寄せる。

西氏 「設置をしてから新たな投棄はない。しかし、本当の効果測定は、監視カメラを移動させたときに分かる」と西氏

一般廃棄物が目立つ島根県の不法投棄

 これまで島根県の不法投棄対策は人の目による監視を主としていた。重点監視地域を10個所程度設定し、重点的に監視を行うほか、郵便局、森林組合、民間企業などと連携し、不法投棄の報告を受けたり、ヘリコプターを飛ばして啓発活動を行うスカイパトロールなどを年2回程度行っていた。

年度 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
件数 4 4 6 11 11 5 1
投棄量(t) 2258 267 216 953 4236 647 0.1

 上記の表は島根県における産業廃棄物の不法投棄の件数及び投棄数だが、2004年(平成16年度)は1件0.1トンで、この1件はいわゆる「特別管理産業廃棄物」である。環境省が公開している2004年の「産業廃棄物の不法投棄等の状況」を見ると、島根県の数値は少ないようにも見えるが、西氏はこれに厳しい目を向ける。

 「不法投棄は不法であるが故に正確な状況把握が難しいものだが、これが島根県の不法投棄の実態かと言えばそうではないだろう。2004年の島根県全体における苦情受け付け件数は全体で490件で、そのうち廃棄物投棄関係は116件だった。島根県では、いわゆる悪質業者が何度も大量に、といったケースではなく、むしろ一般廃棄物が捨てられる小規模の事案が多いため、実際の投棄量は統計データを大きく上回ることは確実」(西氏)

 従来の監視・指導は、苦情のあった事案や、大規模でかつ生活環境保全上支障が生じるおそれのある事案に対応するのが精一杯であった。夜間や山中での監視が行き届いたものでなかったり、そもそも原因者の究明に至らないなど、いわば“捨て得感”を助長し、不法投棄が後を絶たない一因となっていた。

 「原因者の究明に繋がる対策」。この考えに基づいたのが今回紹介する「廃棄物不法投棄監視システム」である。監視カメラを設置するとともに、警察官OBを嘱託職員として受け入れ、原因者究明の足掛かりを得る体制を整えるという狙いがあった。

 こうした取り組みを行うための追い風も吹いていた。同県における2004年の廃棄物不法投棄対策の予算は240万円程度。この金額では廃棄物不法投棄監視システムなど絵に描いた餅で終わってしまう。しかし、2005年から導入された「島根県産業廃棄物減量税」からの歳入は筋から言っても廃棄物不法投棄対策に回されてしかるべきものだった。

 産業廃棄物1トン当たり1000円程度を課税する産業廃棄物税、通称「産廃税」は、都道府県や政令指定都市などが、産業廃棄物の排出抑制やリサイクル率の向上、さらには、県外からの流入増の阻止などを目的に導入するものだが、中国、九州地方では地域全体で産廃税を導入している。排出抑制という意味では、「廃棄物不法投棄監視システム」もその目的にかなったものであることもあり、廃棄物不法投棄監視システムの申請は受け入れられた。結果として、2005年は1280万円の予算と前年の5倍以上となっている。

 その後、数社による一般競争入札を経て、2005年11月に重点監視地域など3地域に同システムを設置、同年12月より運用を開始した。

廃棄物不法投棄監視システムの概要

 「廃棄物不法投棄監視システム」は、監視カメラ、記録装置、電源装置、架台、収納箱および啓発看板で構成され、設置や移設などが可能な自立式となっている。電源の供給は太陽電池とバッテリーを併用しており、バッテリーだけでも7日間程度動作し、撮影は動態検知、つまりカメラがフォーカスしている範囲に何か変化があった場合に行われる。


左上:監視カメラと太陽電池パネル

右上:赤外線照射装置を周りに備えた監視カメラ

左下:施錠された収納箱

右下:収納箱を開けたところ。多数のバッテリーが見える

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