地方自治体における不法投棄の今――島根県の事例(2/2 ページ)

» 2006年02月20日 11時57分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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 このシステムの要となっているのが、日本SGIのユビキタス・モニタリング・サーバ「ViewRanger」だ。2004年6月にリリースされた同製品は監視カメラとしての用途にとどまらず、電気通信工事や保守現場での危険作業を支援するシステム(関連記事1関連記事2)、地盤災害の映像監視システムといったようにさまざまな応用範囲へ用途を拡大しているが、今回再び基本の監視カメラソリューションとして姿を見せた。

 ViewRangerは豊富な通信手段を利用可能なため、携帯電話などと連動させ、リアルタイムに不法投棄を知るようなソリューションも考えつくが、西氏によると、山中などに設置すると電波が届かないなど設置制限を受けることになるため、これを断念したという。

 「移動式であることを前提にバッテリーを使用しているが、その交換のため必ず一定期間ごとに現地に行く必要がある。どうせ行くのであればそのときにデータを回収すればよいと割り切り、このような仕様となった」(西氏)

 システム構築を受注した中国計器工業は、屋内での監視カメラソリューションは豊富な実績を持つが、今回のような屋外での案件は初めてだったという。加えて、受注から納期まで2カ月というタイトなスケジュール下でのシステム構築について、技術本部情報通信事業部ネットワーク・開発グループの専任副長の北山順仁氏は、次のように苦労を語る。

北山氏 「ViewRangerの2.5Wという消費電力の低さはほかに例を見ない」と北山氏

 「仕様にあった『蓄電池式』がくせ者だった。7日程度の連続稼働を実現するためには、むやみにセンサーやカメラの数は増やせないし、それでは可搬性も悪くなってしまう。今回、電気を多く使う赤外線カメラを装着していることもあり、消費電力を重視し、最小限の構成で組んでいるが、ViewRangerの2.5Wという消費電力の低さはほかに例を見ない。この提案に当たっていろいろと探したが、ここまでのものはなかった」(北山氏)

 監視カメラ内のCFカード(1Gバイト)に納められた画像は、嘱託職員などにより行われるバッテリーの交換時に定期的にデータ処理用のノートPCに取り込まれ、原因者究明のために利用される。もちろん、必要な画像以外はすぐに削除されるなど、個人情報を必要以上に保持しないよう細心の注意が払われている。

 興味深いのは、このデータ処理用PCへの取り込みには無線LANを使っているが(有線も用意されている)、これはViewRangerに無線LANのCFカードを装着して実現しているわけではなく、別途無線LAN用の装置を用意し、そのハードウェアスイッチのオン/オフによって実現している点だ。

 こうした構成になっている理由は明白で、大きく2つに分けられる。一つは常に無線LANのアクセスポイントとして存在していては第3者からのクラックを受ける可能性があるため。もう一つは上述のとおり、無駄な消費電力を減らす必要があるためだ。

同システムのコアとなるViewRanger。後ろにはハードウェアスイッチを持った無線LAN装置が見える

今後の課題と展望

 実際に運用を始めてみて、見えてきた課題もある。一番の課題はカメラの解像度だ。

 「原因者究明という観点で考えると、数十万程度の解像度ではナンバープレートが判別しにくかったりと不十分だが、どの程度監視カメラに原因者が映り込むかが未知数だったため、搭載可能なストレージ容量とのバランスを考慮した結果、むやみに解像度を上げてファイルサイズを大きくはできなかった。今後、一定期間にどの程度データが蓄積されるかなどの統計データがそろってくれば、ここは改善したい」(西氏)

データの回収はこのような感じで行う。ここでは無線LAN装置ではなく有線で作業している
ViewRangerにアクセスし、カメラのフォーカス位置や感度を調整中。たしかに解像度が低いように見える

 まだ設置してそれほど時間がたっていないため、その効果を測定することは難しいと前置きしながらも、西氏はこのシステムの今後についてこう話す。

 「重要なのはこのシステムを一定期間後に移動させたとき、再びそこで不法投棄が行われないことであることを考えれば、まだ費用対効果などを考えるのは早計ではあるが、設置した場所については新しく不法投棄は確認されていないなど一定の効果は現れ始めている。県内に7個所保健所があるが、今後はそのすべての管内にこれを配置していきたい」(西氏)

 不法投棄をなくすにはさまざまな側面からの取り組みが必要となる。監視やパトロール体制の強化だけでなく、不法投棄の罰則強化なども必要だろう。加えて、過去の不法投棄の原状回復をどう処理するかということも重要な課題として残る。そうした声に西氏は意識改革の必要性を訴える。

 「不法投棄した人を指導したりすることも仕事の一つではあるが、本当に推進すべきは『(気持ち的に)捨てられない環境』を創っていくこと。ドイツなどでは社会全体でこの分野の教育が進んでいる。市民、行政、生産者などが一体となって問題に取り組むことが求められている」(西氏)

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