WNXサーバはUNIVERGEに欠けていたピースか?

NECが発表した手のひらサイズのユビキタスモニタリングサーバ「UNIVERGE WNXサーバ」は、同社の「UNIVERGE」ブランドに加わる。同製品は単なる監視カメラか否かを探る。

» 2005年09月19日 07時15分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 NECが2005年8月4日に発表した手のひらサイズのユビキタスモニタリングサーバ「UNIVERGE WNXサーバ」(WNXは「Wearable NEC UNIX」の略。以下WNXサーバ)。同社では2003年に企業向けネットワーク製品を「UNIVERGE」(ユニバージュ)ブランドとして再構成しており、今回のWNXサーバもUNIVERGEを構成する1製品として位置づけられている(関連記事参照)

ウエアラブル
全景
CFカードスロット

 同製品はプレスリリースに「日本SGIと協力し、開発・商品化」とあることからも分かるよう、同製品は日本SGIが2004年6月に発売した「ViewRanger」をベースとしている。CFカードスロットを2つ搭載するなどの機能拡張が行われているほか、製品本体のカラーもUNIVERGEのコンセプトカラーと同じものになっている。なお、日本SGIでは2004年12月に開催された「ブロードバンド・ユビキタス・ソリューション 2004」で同製品のプロトタイプと思われるものを展示していた(関連記事参照)

 2001年に日本SGIがNECからの出資を得て、「商法上は」NECの子会社となった日本SGI。こうした協業が起こってくることは何ら不思議ではないにもかかわらず、これまで両社の目に見える協業といえば米SGI製品関連のものが多く、日本SGIオリジナルのものは見えてこなかったのが現実だ。だが、今回のWNXサーバは日本SGIオリジナルであり、ようやく両社の協業が面白くなってきた感がある。

今回お話を伺った各氏。左から野堀氏、星名氏、柳内氏、斎藤氏

 しかし、なぜUNIVERGEブランドとしてなのか。UNIVERGEブランドは企業向けネットワーク製品を再構築したもの、と前に紹介したが、これは言い換えればNECにおける通信系のシステムをファミリー化したものである。また、同セグメントで手がける案件としては公共ネットワーク、つまり官公庁や自治体のほか、防災関連、交通機関といったシステムの案件が多い。

 近年のブロードバンドの発達により、こうしたセグメントでも「映像」を配信、活用したいというニーズがこの1年で増えてきたとNEC公共ネットワークソリューション事業部統括マネージャーの星名一帥氏は話す。例えば、鉄道の工事現場では、古い機械や線路のポインタに向かい合う従業員に対しその操作を指示するために、WNXサーバのような製品が渇望されていたという。NECでもこうした監視カメラ系の製品を持っていないわけではない。しかし、太い帯域を確保するためのバルク通信など、どちらかと言えばHDTVレベルの映像をにらんだようなハイエンドの製品群であり、その消費電力を考えると気楽に使えるプロダクトとは言い難いものであった。その意味では簡単にデータの蓄積、送信が可能なWNXサーバはUNIVERGE製品群に欠けていたピースであったといえる。

 折しも日本SGIでも、CFカードスロットが1つしかないViewRangerに寄せられる要望――(データを)蓄積しているときは送信できない、その逆もしかり――に応えるためにハイエンドのものを開発したいという思いがあり、両社の思惑が一致、2005年3月ごろWNXサーバの発売に向けた動きが本格化し始めた。

NECが販売するということ

 同製品は当初1年の目標として約1万台の出荷を目指しているが、すでに多くの引き合いがきているようだ。興味深いところでは、消防機関も注目しているという。レスキュー隊員が現場の状況を迅速に伝える際に役立つほか、あまり知られていないニーズがあるという。

 レスキュー隊員の中には、現場検証用に撮影を行う隊員がいるという。こうした隊員は、一般市民から「写真なんか撮ってないで早く火を消せ」とやじられることもあり、非常に心苦しい気持ちを持つという。こうした隊員にもウェアラブルなWNXサーバとカメラのヘッドセットを装着させることで、消火・救助活動を行いながら、撮影も行わせることを可能にするというのだ。こうした「ながら」撮影のニーズは消防機関に限らず、意外と多く存在するように思われる。

 また、高速道路で目にするETCにもこうした小型で設置が容易なマイクロサーバを採用する向きもあるという。こちらも来年の本格運用を目指して実験しているところだ。

 とはいえ、同製品が広く市場に受け入れられるためには、25万円を超える価格はネックとならないのだろうか。この点について星名氏は「単体であれば高価と言えるかもしれないが、あるシステムに組み込むことを想定すれば、システム全体に占める価格としては微々たるもの」といわゆるコンシューマー系の市場とは若干異なることを説明する。とはいえ、価格体系は複数取りそろえたいと言い添えている。

「必要な部分を切り売りするような方法、組み込み型も検討したい」(星名氏)

 また、日本SGIでは「ViewRanger」をベースに、工事現場などにおけるソリューションとして大明および大明の100%出資子会社のIPテクノサービスと共同開発して「RiskRanger」「RiskRecorder」などの製品も生み出している(関連記事参照)。今回NECがWNXサーバを市場に送り出すことで、日本SGIのViewRangerはどうなるのだろうか。

 日本SGI営業企画推進本部執行役員本部長の斎藤智秀氏は、「マーケットも大きくなり、旧来のViewRangerのビジネスも拡大する」と期待を寄せる。日本SGIとNECで圧倒的に違うものとして、ブランド力と販売チャネルを挙げることができる。加えて、UNIVERGEがターゲットとしている公共の領域などでは、長期のスパンで保守やスペアなどを求めるのが通例だ。日本SGIでは厳しい話でもNECであれば受注できる可能性が高くなる。こうした動きが結果的にマイクロサーバの需要を押し上げると見ているのだ。

 「マイクロサーバというものが一人歩きすることなく、問題解決型のソリューションがありきで、その案件に組み込まれる形で世に出て行くのが望ましい」(星名氏)

 では、結局のところ、この製品は監視カメラのソリューションとしての位置づけとしてとらえればいいのだろうか。そんな問いにNEC公共ネットワークソリューション事業部ソリューションビジネス推進部長の柳内洋一氏は笑って「要は使い方」と話す。

「いわゆる2007年問題はご存じですね? 例えば大きな製造現場を抱える製造業の経営層は熟練工が退職することでその技術力が失われはしまいかと戦々恐々としているかもしれません。しかし、こうした製品があれば、熟練工が持っているナレッジを映像と音声で記録できてしまいます。わたしたちからの提案を超えた活用ストーリーをユーザーが考えついてしまうでしょう。得てして一番いいストーリーはお客様が考えつくのです」(柳内氏)

 すでにある医大でも患者のデータを医師がリアルタイムに把握するためのウェアラブルサーバとして導入する動きもあるという。小さな筐体に大きな可能性を秘めたWNXサーバを街のあちこちで目にする時代がくるのかもしれない。

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