しかし、中堅・中小企業の現状を見ると、日本版SOX法施行に象徴されるような新たな経営環境の変化に柔軟に対応できるITシステムが十分に整備されているとは言い難い。なぜなら、かつての「IT化」が紆余曲折を経たものであったからだ。
第1回目でわたしは、オフコンを例に挙げて、日本の中堅・中小企業が昔からIT化に積極的に取り組んできたことを紹介した。1970年代後半から1980年代前半にかけ、中堅・中小企業、さらには個人商店までもが、まだまだ高価だったオフコンを積極的に導入したのだ。
しかし数年後、そのオフコンに覆い被さるようにPCが登場した。オフコンはこのPCに追われ、1980年代半ばには主役の座をPCに明け渡すのだが、実はこの世代交代の中で中堅・中小企業のIT化手法が様変わりしてしまった。
オフコンは、完全にパッケージソフト中心の世界だ。オフコンベンダーは業務、業種別のソフトウェアを整備し、入力や出力帳票もすべて用意した。それに比べ、PCにソフトウェアはほとんど付いていなかったのだ。唯一含まれていたのは、プログラミング言語のBASICだった。余談だが、それにマニアが飛びついてBASICブームが起き、手作りの文化が生まれた。そのような背景もあり、PCの登場が中堅・中小企業においてパッケージソフトウェアを軽視する傾向を生んでいったのである。
もちろんその裏で、オフコンベンダーによるソフトウェア文化開拓の取り組みは続いていた。オービックは、オービックビジネスコンサルタント(OBC)を通じてPC向け会計ソフトを開発。同じく大塚商会もSOHO向けに「SMILEα」を発売する。それに、ピー・シー・エー(PCA)やシステムハウスミルキーウェイ(現弥生)のように8ビット時代からPC用会計ソフトを作り続けているベンダーが加わった。
しかし、これらのベンダーが提供するソフトウェアも当時は経理、財務といった一般的な機能の提供にとどまっており、あらゆる業務をカバーする現在の「ERP的な」統合パッケージソフトウェアは少なかった。さらに、企業が単に業務処理の効率化、合理化という視点だけで個別にシステムを構築してきたことが重なって、現在のような急激な経営環境の変化に耐えられないシステムを生み出してしまったのだった。
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