重要なのは競争より差別化強い中堅企業のIT化シナリオ(1/2 ページ)

中堅・中小企業がまず目指すべきことは、その分野では誰にも負けない技術やノウハウを持つことであろう。東京の大田区や大阪の東大阪市には、たとえ零細企業であっても誰にも負けない技術を持った人たちがいる。

» 2006年03月03日 15時00分 公開
[宍戸周夫,ITmedia]

オンラインムック強い中堅企業のIT化シナリオ

宍戸周夫

 日本では、1950年代後半から1960年代始めにかけて、大企業の事務部門が相次いでコンピュータを導入した。いわゆる汎用の大型コンピュータである。そしてこれに続く1970年代には中堅・中小、零細、さらには美容院、酒屋、縫中堅製業、中卸といった商店、店舗にまでコンピュータが入っていった。中堅・中小企業のIT化はこのころから始まっている。すでに四半世紀の歴史があり、日本の中堅・中小企業のIT化には長い歴史があると言えよう。

 当時、こうした企業が導入したのは日本独特のオフィスコンピュータ、略してオフコンと呼ばれる伝票発行機のようなマシンだった。当時のオフコンベンダーは三菱電機、東芝、NECの「御三家」を筆頭に、事務機器メーカーや外資系メーカーの販売代理店も含め、約50社に上っていた。これらのオフコンセールスマンが、まさに「ドブ板作戦」で中堅・中小企業を回っていた。

 オフコンは、米国のカテゴリーでは「Billing Machine」または「Small Computer」に該当するものだが、きちんと業種、業務別のアプリケーションが組み込まれていた。美容院の顧客管理システムも酒屋の販売管理システムもそろっていたから、零細企業でも商店でも導入してすぐに使えた。

 しかし、オフコンは安いものでも300〜400万円、中型クラスで1000万円を超えていた。ビジネス用のPCはまだ登場していない時代だ。日本の中堅・中小企業はこのころから、今日と比べてもまったく遜色ないIT投資を行ってきたのである。

 つまり、「中堅・中小企業だから一概にIT化が遅れている」と一概には言えないということだ。むしろ、金額的には以前から積極的な投資を行ってきた。今は、PCもサーバも低価格化し、IT化を成功させる条件はますます整ってきている。さらにオフコン時代のような単なる事務効率化にとどまらず、より戦略的なIT投資ができる時代になってきた。

 それにもかかわらず、中堅・中小企業のIT化がいつの時代も新たな、そして取り残されたテーマのように取り上げられるのはなぜか。そこには、いくつかの理由と誤解がある。

払拭すべきは二重化構造論

 その1つは、日本独特の大企業神話だ。一般的に、中堅・中小企業に比べると、大企業の方が優れているという乱暴な見方があることは否定できない。いわゆる産業の二重構造論、または、新二重構造論がいまだに根強く残っている。大企業と中堅・中小企業の間にある生産性の格差や賃金格差が強調される傾向にある。

 確かに、売り上げも従業員数も平均賃金も、中堅・中小企業は大企業に劣る。もともと、中小企業というのは売り上げ、資本金、従業員数で規定されているから仕方がない。だが、実際には、中堅・中小企業の方が優れていることを示す指標はいくらでもある。

 例えば売り上げは大企業に負けても、企業の収益力を測る代表的な経営指標とされる売上高経常利益率(売上高に占める経常利益の割合)を見れば、大企業の数値を大きく上回る中堅・中小企業が数多く存在する。それは、前回も指摘した通りだ。

 この二重構造論を完全に払拭するだけでも、日本経済が活性化する余地はある。日本の学生は就職先としてどうしても大企業を志望する傾向にある。良い大学へ行って大企業に就職すれば一生安泰に暮らせると、漠然と考える学生が多い。

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