現在、グローバルでは電子政府への取り組みはどのような状況にあるか、その内容について同研究所長の小尾敏夫氏に聞いた。
ITmedia 調査から分かる日本の抱える問題点は何ですか。
小尾 ネットワークインフラの整備はトップにあるが、問題はアプリケーション、コンテンツの普及率で、特にオンラインサービスが想定利用件数に達していないなど利活用率が低い。その理由は3つ考えられる。
まず、こうしたサービスに対する市民の認識が、「窓口に行かなくても済むようになった」程度、言い換えれば、申請の仕方の選択肢が1つ増えたという程度に過ぎないことが挙げられる。日本より上位のカナダ、シンガポールでは市民が望むものをシステム化しており、こうした事例を参考にする必要がある。
第2に、住民にとってネットワークを活用するインセンティブが不足していること。役所の窓口に行くことは日常的なことではないので、よほどのインセンティブがないと利活用率は上がらない。米国では電子納税を行うと税金が多少減額される制度がある。こうした制度を日本も検討する必要がある。
そして第3にはPR不足だ。国や地方自治体は利用率を高めるためにもっと積極的に住民サービスの向上をPRする必要がある。住民の利用率が高まることが行政の効率化にもつながってくる。政府も社会全体の仕組みが変わるということをもっと、国民に理解してもらう必要があるだろう。
ITmedia IT化を担う人材についてはどうでしょう。
小尾 人材不足・人材育成は最も大きなテーマだ。CIOについて調査したのは本調査のみだが、IT化を担う人材は世界的に不足している。CIOとして望ましい70項目(コアコンピタンス)を米政府は示しているが、その資質を持つ人は少ない。内容は技術的な知識のほか、政策実行者としての総合力にも及ぶので、こうしたことを今後大学などで本格的に養成していく必要があると考える。
ITmedia 日本と米国でCIOに求められるものは違うのでしょうか?
小尾 CIOは米国では職位で、弁護士や会計士と同様に扱われているため、別の組織に移ってもCIOはCIO。一方、日本では地位。米国は専任だが、日本は兼任であることも多い。「どちらが良いか?」と聞かれるが、これは日本の事情を考慮すると一長一短だと言える。日本では、ITの知識は少なくても官庁の官房長官や、地元自治体の助役など組織で力を持っている人がCIOとなる。これなら中央官庁にしろ、地方自治体にしろ組織を動かすことができるが、民間からスカウトしたCIO補佐官やIT政策監だけでは権限が弱く組織の壁を破れないし、動かせない。
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