フリーソフトウェアを陥れる罠Magi's View(1/2 ページ)

FSFはデジタル著作権管理の危険性を世間に周知する運動の準備を進めている。自らの利害とユーザーの権利とを混同させようとしているDRM支持派の戦術をあばき、仕組まれた用語を事実に即した用語に置き換えることが狙いだ。

» 2006年05月17日 12時10分 公開
[Bruce-Byfield,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine

 Free Software Foundation(FSF)は、常々、言葉の魔力を重くとらえてきた。このことを最もよく示しているのが、FSFが「GNU/Linux」という用語にこだわり、認知度を高めるために「フリーソフトウェア」という言葉を「オープンソース」と同じように重用していることだろう。現在、FSFは、デジタル著作権管理(DRM)テクノロジーの危険性を世間に周知する運動の準備を進めており、反対派の意見が自然に信用を失ってしまうような形で論争に突入するやり方に疑問を呈し、奮闘を続けている。

 FSFの常任理事、ピーター・ブラウン氏によると、DRM支持派によるこうした戦術をあばき、仕組まれた用語を事実に即した用語に置き換えようと試みることが、今回の運動の準備、ひいては運動そのものの大きな狙いだという。ブラウン氏は、カリフォルニア大学バークレー校で言語学と認知科学を研究するジョージ・レイコフ教授が「フレーミング」と呼ぶ概念に関心を寄せている。本来、フレーミングとは、議論の一方の側に支持を集めるための定義付けをいう。例えば、米国の共和党は、「減税」という言葉を用いて課税問題の議論を行うことで、党の見解に支持を集めた。減税(tax relief)という言葉は、税金が高すぎることを暗示するだけでなく、救済(relief)のような感情を喚起する単語を使うことによって、それを支持する者には圧政者に立ち向かっているような感覚を、それを疑問に思う者には匿名の圧政者を支持しているような感覚を与える効果もある。レイコフ教授は、米国の右派はフレーミングの重要性を十分に理解し、かなりの時間と労力、資金をそこに投入している、とほのめかす。これに対し、概して左派は、フレーミングによって世論がどのように形成されるかに疎く、ただ事実を述べていれば十分な支持が得られると無邪気に考えているふしがある、という。

 FSFは、フレーミングが数々のテクノロジー関連の問題にも影響すると見ている。事実、ブラウン氏は、FSFの立場に異を唱えるする人々を、米国における仕組まれた政治的世論の形成を助ける人々と同じように見ている。「連中はマーケティングに莫大な資金をつぎ込んでいる」と彼は述べる。「彼らは、その筋の専門家で、情報を収集し、人々が世論を受け入れるかどうかを理解している。その結果、人々は、自分たちのインストール環境や世間の目が届かない消費者プロジェクトを後押しするようになる」

 FSFの創設者、リチャード・ストールマン氏は、フレーミングの一例として「知的財産権(intellectual property)」という語句を挙げている。彼は、この語句を「魅惑的な幻影」と語り、創造的で知的な活動と物理的な物体との間に誤った類似性を人々に植えつけようとするもので、著作権、特許、商標といった個別の概念を誤解を与えるような形で1つの問題にまとめたものだ、と非難する。同じように、ブラウン氏は、ファイル共有を「著作権侵害/海賊行為(piracy)」と無意識的に呼ばせることで「合法的な利用をまるで大量殺りくのような重い罪に転化」させようとしていたり、インストールするとハードウェアをセキュリティ上信頼できないものにしてしまうテクノロジーを「信頼できるコンピューティング(trusted computing)」という言葉で説明している例も挙げている。

 ブラウン氏は「デジタル著作権管理(digital rights management)」という語句を次のように分析する。

「権利(rights)」とは、権利章典(Bill of Rights)が示しているとおりのもの――誰もに利益を与える、奪うことのできないもの――である。DRM技術を利用した製品のユーザーに対して、あなた方は製品の権利を管理しているのだ、と思わせることで、ユーザーを満足感を与え、それは素晴らしいことなのだと伝えているのだ。実際、米国映画協会(Motion Picture Association of America、MPAA)や全米レコード協会(Recording Industry Association of America、RIAA)の人に話せば、まったくそのとおりだ、と答えてくれるだろう。連中はまるで、DRMによって消費者は自分たちの権利を理解できるかのように語っている。しかし、実際には、DRMが消費者から権利を奪っているのである。

 「管理(management)」という語は、DRMテクノロジーに対し、「ユーザーはDRMのおかげで自分たちの権利を保持でき、その内容を知ることができる」という考えを生み出している、とブラウン氏は語る。「しかし、ユーザーは次のように主張すべきなのだ。DRMは自分たちに制限事項を理解させるためのものであるにもかかわらず、連中は自らの利害とユーザーの権利とを混同させようとしているのだ、と。連中は、制限を受けることが消費者の利益になる、とわれわれに信じこませようとしている」

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