今すぐアウトソーシングを中止せよ?顧客満足度ナンバーワンSEの条件〜新人編

「今すぐアウトソーシングを中止せよ」と警鐘を鳴らすのは、米Gartner ResearchのIT&サービスマネジメントグループでリサーチ担当副社長を務めるアリー・ヤング氏だ。IT部門の変革がカギを握る。

» 2006年05月31日 11時56分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 「今すぐアウトソーシングを中止せよ」と警鐘を鳴らすのは、米Gartner ResearchのIT&サービスマネジメントグループでリサーチ担当副社長を務めるアリー・ヤング氏だ。同氏にアウトソーシングの今後の展開について聞いた。

 同氏は、2010年までに「マルチソーシング」と呼ばれる進化したソーシング手法が主流になると指摘する。その流れに乗り遅れれば、バイヤー、サプライヤーなどで構成されるビジネスのサプライチェーン上に大きな混乱が起きるという。

アリー・ヤング氏

 ヤング氏によれば、マルチソーシングとは「ビジネス目標を追求するために、社内外のプロバイダーを適切に併用し、ビジネスおよびIT関連のサービスを秩序ある形で融合して提供すること」と定義される。アウトソーシングが場当たり的になりがちであることに比べて、マルチソーシングはより戦略的に外部のリソースを使うイメージだ。

 同氏は、「本来ソーシングはビジネス戦略に沿ったものであり、かつ成果重視であるべき」だという。だが、従来のアウトソーシングでは成果ではなく問題重視になっている。また、ビジネスが静的でないのと同様にソーシングも静的なものでは長期的には変化に対応できないこと、ある業務を「分離して」外部に委託することなどに、アウトソーシングの限界があるとしている。

 そこで、マルチソーシングの手法では、ソーシングをもっと戦略的にとらえ、統合していく。それにより、「予測に基づいた迅速な対処をすることでビジネス戦略を実現すること」「必要なスキルとサービスを最適なソースから、最適な期限内に最適な場所で収集できる」「採算性が驚くほど低減する、といった予測不可能な事態が起きにくくなる」などの利点が出てくる。

 だが、新たなキーワードであるマルチソーシングも、大きな枠で見ればアウトソーシングとの違いがはっきりしない印象もある。では、最大の違いはどこなのか。それは、意思決定をする上での順番にある。

 従来型のアウトソーシングは「誰が、何を、どこで、どのように、なぜ」という考え方で行うが、マルチソーシングは最初に「なぜ」が来る。「なぜ、何を、誰が、どのように、どこで」ということになり、何よりも目的を明確にすることが重要になってくるという。

 マルチソーシングにおけるそれぞれの役割を具体的に掘り下げると、「なぜ」の部分は主に、コスト削減、業務改善、ビジネスパフォーマンス向上などに分けることができる。ソーシングする理由を企業戦略の中で明確に位置付けることが第一歩となる。

 次に、「何を」については、コアコンピタンスに近いかどうかや差別化することによる価値がどれだけあるか、といった基準を基に、「サービスAとプロセスBについては外部に委託しよう」といった意思決定を行うことになる。「誰が」でも、同じように価値を評価した上で、自社で持つ(インソースする)のか、アウトソースするのかを決める。

 全体として、マルチソーシングでは、継続的な改善のアプローチを組み込むことが必須という。パフォーマンスを数値化することによる「評価」、問題の特定による「検証」、改善策を実行する「修正」プロセス、監視およびベストプラクティスの記録による「誘導」というアプローチを継続的なサイクルとして回していく必要がある。

 また、同じGartnerでリサーチ担当副社長を務めるカシオ・ドレイファス氏は「マルチソーシングの実践のためにはビジネス部門との強固な関係の構築が不可欠。だが、現状では多くの企業のソーシング規模は限定的であること、IT部門が未成熟であることなどが障壁となっている。変革には組織的、文化的な変化が必要」と話し、IT部門の改革から着手することがマルチソーシング成功のカギを握るとしている。

カシオ・ドレイファス氏

 Gartnerの提言では、アウトソーシングは近い将来企業戦略をコアにマルチソーシングへと変化する。それを成功させるためには、マルチソーシングを業務のトランザクション上ではなく、組織間の関係のネットワーク上に構築し、ガバナンスと評価の仕組みを組み込むことが不可欠となる。そして、主導するのは変革によって生まれ変わったIT部門である。

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