提言6:IT投資はリアルユーザーの視点で考えよマネジメントイニシアチブ時代に向けて――7つの提言

マネジメントイニシアチブ時代に向けて――本企画では7つの提言について順次、解説している。今回は「提言6」として、「IT投資はリアルユーザーの視点で考えよ」がテーマ。

» 2006年06月22日 07時00分 公開
[増田克善+アイティセレクト編集部,ITmedia]

なぜ“使えないシステム”が生まれるのか

 システム導入に数億、数十億円を投資したにもかかわらず、企業にとっての新しい価値を生み出すどころか、有効に活用されないITシステムが多いという声をよく聞く。システム導入プロジェクトは、ほぼ成功し、安定稼働している。しかし、それを使う人や組織が動かないために、システムが想定した効果を経営上発揮しないというものだ。戦略シナリオや目標、適切な評価指標、マネジメントの欠如であったり、あるいは、そうしたことの組織への教育、浸透不足などだったりする。つまり、経営戦略とIT戦略がかけ離れているという、ITガバナンスの欠如だと考えられる。

 また、業務改革を目的にシステムを開発・導入したが、制約が多くて、エンドユーザーから「使えない」と言われたり、運用上の人的な問題でエンドユーザーからコンテンツの提供が進まなかったために、利用も浸透しなかった企業ポータルサイトやナレッジマネジメントシステムも見受けられる。機能やユーザーインターフェイスが現場の実務と合わないことに加え、システムの求めるスペックが利用現場の環境を上回っていたといったケースもある。

 こうしたITシステムは当初考えていた機能を実現できていない。あるいは保守・運用面を軽視したこと、利用部門の意向を正しく反映できなかったことなどが問題の背後にあるのではないだろうか。ITシステムは利用部門であるリアルユーザーが実際に使用し、業務のパフォーマンスを高め、それが企業競争力を向上させていく。現場を知らない管理者サイドが要件定義をして構築されたシステムや、システム部門が技術的な問題から自分たちの開発のしやすさを優先して業務プロセスを設計したことが理由で使えないシステムが構築されると、システム導入を経営陣がリードしたのか、あるいは情報システム部門がリードしたのかといった違いはあっても、いずれもリアルユーザーの視点を欠いたことが大きな理由で使えないシステムが出来上がってしまうことになる。

 こうしたリアルユーザー軽視の例は、SLA(サービス・レベル・アグリーメント)にもある。SLAは一般的に、提供者(運用サービスプロバイダーや自社のシステム運用部門)が利用者に、サービスの内容や品質を保証する取り決めを指すものとされる。その際に客観的な視点で定量データとして測定可能なもの、自動的に測定可能なものなどがサービスレベルの項目として設定される。

 ところが、数値データとして測定可能なものとして、OSレベルでのパフォーマンスやCPU使用率などの項目が取り沙汰される。こうした項目は、エンドユーザーから見ればサービスに与える影響が明確でないことが多く、エンドユーザーにとってはどうでもいいことでもある。提供されるサービスに対するエンドユーザーの満足度は漠然としたものであり、サービスレベルの設定は難しいのも事実だが、数値化し、合意される項目はあまりにもエンドユーザーを軽視した内容が多いことが見受けられる。特に運用サービスプロバイダーと情報システム部がSLAを結ぶとき、両者だけが理解できる内容で議論されることが多く、そこには実際にサービスを享受するリアルユーザーの顔がまったく見えないものになっている。

戦略を実行するのはユーザーだと認識せよ

 経営者がIT投資をすることの目的は、業務プロセスの標準化、情報の活用、業務の効率化、経営マネジメント機能の強化などによって、競争力を強化するとともに会社の価値を高めることである。業務プロセスを回すのも情報を活用するのも、すべて現場の社員である。その社員が毎日活用するITシステムは、リアルユーザーのためのものでなければならない。アプリケーションはリアルユーザーのものであって、そのリアルユーザーの視点でシステム導入されるべきだ。つまり、リアルユーザーの視点でIT投資することが非常に重要になってくる。

 ところがIT投資の一番の問題点は、経営者はシステム提案者に投資するが、システム開発者はユーザーではないので、自分では実際の効果を推し量ることができないところにある。システム開発者はシステムサービス機能を作って、現場のリアルユーザーが活用して効果を生み出し、それを経営者にフィードバックするという関係にある。提案する人がシステム部門の人間だったとして、「この投資をすれば5人分の人員削減が可能です」といったら現場の不満をかうことになる。これが効果を生み出せない元になる。経営者は、効果を生み出すのは現場のリアルユーザーであることを認識し、システム担当者に投資するという視点を持つべきである。

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