「JEMSの世界展開を加速する」とJBoss World 2006でフルーリ氏

Red Hatによる買収が業界へインパクトを与えたJBoss。国内でもECサイトへの採用が事例として登場するなど、確実に領域を広げている。

» 2006年06月23日 06時13分 公開
[梶山隆輔(野村総合研究所),ITmedia]

 6月12〜15日までの4日間、米国ネバダ州のラスベガスで「JBoss World 2006」が開催された。

 「JBoss World」は、オープンソースのJavaミドルウェアベンダーであるJBossが、半年ごとに米国と欧州で開催しているユーザーカンファレンスである。今回のJBoss Worldでは、直前に合併完了が発表されたRed Hatとの発表が行われる場ともなった(関連記事)。しかし、合併についてはカンファレンス参加者からは肯定的な受け止められ方が大半であり、今後についてが期待されるところだ。

 今回で3回目の開催となるJBoss World。これまでの開催はどちらかというと技術的なセッションが中心となっていたが、今回はビジネスユーザーへ向けたものや事例紹介のセッションの数が増えており、製品および企業として成熟したものになりつつある印象を受けた。

 また金融や通信といった分野での大規模な事例の紹介が多数設定されていたのも印象的であり、ミッションクリティカルな領域でも充分なクオリティを持った製品として欧米ではすでに認識されていることを強調していた。国内では、野村総合研究所が2005年11月にセブンドリーム・ドットコムのEC(電子商取引)システムの再構築事例として発表しており、ミッションクリティカルな領域におけるオープンソース活用事例として紹介されている。

 先に触れたように、JBossは6月5日にRed Hatとの合併手続きを完了しており、法人としてのJBossは法務的には消滅し、Red Hatの一部門となっている。ただし、サポートやコンサルティング、トレーニングなどのサービスは基本的に同じ内容を継承し、JBossのパートナーを経由して継続となる。中長期的には、Red Hatのサービスと統合して展開する予定となっているが、実務レベルでは現在詳細を調整中とのことである。

 今回の合併によってJBossの創立者でありCEOであったマーク・フルーリ氏は、Red HatのJBoss部門上級副社長兼ゼネラルマネージャという肩書きとなった。フルーリー氏の基調講演では、JBossとRed Hatは企業文化的に類似している点が多く、2社の融合はうまくいくものだと述べた。また、合併における最大のメリットは、Red Hatのネットワーク網を生かし、JBoss Application Serverを中心としたJEMS(JBoss Enterprise Middleware Suite)と呼ばれるJBossプロダクトの世界展開を加速させることができることにある。今後は、ドキュメントやチュートリアル、トレーニングテキストなどの翻訳を行っていくが、日本語によるものも、最優先の翻訳対象と位置付けられていることを明かした。

 これにより、OSとしてのRed Hat Enterprise Linuxに加え、管理ツールやサポートサービスを統合することで、エンド・トゥ・エンドなプラットフォームが提供可能となっていく。今後は、Red Hat NetworkからJBoss製品のダウンロードやアップデートパッチの取得が可能になる予定も明かした。一方で、Red Hatとの統一的なサービスを提供すると同時に、Windowsや商用UNIXなどのOS上での利用についても継続的にサポートするとのことである。

 基調講演で紹介された新製品で、今回のJBoss Worldで最も話題となっていた製品は「JBoss Seam」であった。JBoss Seamは、EJB(Enterprise JavaBeans) 3.0とJSF(Java Server Faces)、Ajax(Asynchronous JavaScript and XML)をシームレスに開発するためのプラットフォームのこと。このほか、Apache HTTP Serverを性能で凌駕し、PHPなどの既存アプリケーションも利用可能なJBoss Web Serverや、SOAプラットフォームとしての製品ラインナップを整えて行く上で重要となる「JBoss Transactions」、そして「JBoss Rules」などの既存技術を吸収し、自社製品化したツール群の説明に時間が割かれていたことも特徴だ。

 基調講演後、JBossプレミアパートナーである野村総合研究所とのミーティングの中で、フルーリ氏は日本市場へのメッセージを述べた。

 「日本市場におけるレッドハットの実績、そしてネットワークを活用してJBossのプレゼンスを向上させていく。日本のパートナーとの協力によって、今後はJEMSの普及拡大を目指していく」とコメントした。先に挙げたように、ドキュメント類の翻訳を含めJBossの日本での普及に力を入れていることが繰り返し強調されており、今後はRed Hatとの合併効果による展開に注視していきたい。

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