GPLの規約が派生ディストリビューションに及ぼす憂慮すべき影響Magi's View(1/2 ページ)

ディストリビューションの大多数はGPLに定められた要件そのものを知らない。にもかかわらずGPLに規定された条項が時に彼らを苦しめることになる。GPLがオープンソースコミュニティーの生産活動に悪影響を及ぼすのだろうか?

» 2006年07月03日 09時48分 公開
[Bruce-Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 ウォーレン・ウッドフォード氏はMEPISディストリビューションの設立者であるが、おそらく現在の同氏の心を占めている思いは、最新リリースの仕上げに専念したい、という願いであろう。こうした同氏の希望を妨げているのはFree Software Foundationからの公式通知で、その内容は、MEPISはベースとなったディストリビューション(従来はDebian、現在はUbuntu)からかつて流用したパッケージのソースコードを提供しておらず、これはGNU General Public License(GPL)に違反している、というものであった。ウッドフォード氏はこの督促に従う気ではあるのだが、同時に懸念しているのはこうした要求が及ぼす影響であり、ほかのディストリビューションをベースに二次的に構築されたディストリビューション、特に1人か2人程度のメンバーが余暇を利用して運営されているようなケースはどうなるのか、というものである。

 ソースコードの公開という規約は、GPLバージョン2のセクション3に規定されている。このセクションの記載に従うと、GPLコードを配布する場合は「ソフトウェアの交換で習慣的に使われる媒体」を使用してソースコードを最大3年間公開する義務を負うことになる。実際問題として、ここに書かれている媒体とは、CDかDVD、あるいはダウンロード用のサーバが該当するのが普通だ。またGPLのセクション6によると、こうしたコードを配布する者は自動的にセクション3の義務を負うことになる。ちなみに草案段階にあるGPLバージョン3のセクション10では、こうした義務はより明確に規定されており、“ダウンストリームユーザー”(ウッドフォード氏のように、“アップストリームディストリビューター”であるほかのプロジェクトの成果を流用する者)を特定した上で、先のような義務が課されることが明示されている。

 FSFでGPLコンプライアンスエンジニアを務めるデビッド・ターナー氏は、「その辺は、非常に明確であるとわたしどもは考えています」と語る。「公開されるソースコードの二次的使用の許可に関する問題の1つに、アップストリームディストリビューターにソースコードの継続的な公開を要求する規約が存在しないことがあります。公開を停止されたソースコードは、その後の入手が完全に不可能になってしまいますからね。それと、もっと一般的に起こっているのは、アップストリームディストリビューターがソースコードをアップグレードする際に、結果としてダウンストリームディストリビューターとの同期が取れなくなることに無頓着だということです。そのためユーザーがバグフィックスをする場合には、手元にあるバイナリと正確に対応するソースコードを自力で探し出さなければなりません」。

 現状でウッドフォード氏の手掛けたMEPISの再構成カーネルに関するソースコードは、Debianのソースパッケージとして公開されている。同氏の犯した過ちは、何らかの場所でソースコードが入手可能な状態にさえなっていれば、新たな改訂を施さない限り自分自身でソースコードを提供する必要はないはずだと理解していたことに起因するようである。同氏はほかの配布元とコンタクトしたことはないが、このように理解していた人間は自分1人ではないはずだと考えている。「わたしを含めておそらく1万人くらいが、自分たちはアップストリームディストリビューションのオンライン公開についての免責条項が適用されているはずだと思いこんでいたでしょうね」、とウッドフォード氏は語る。「DistroWatchに登録されている500のディストリビューションのうち、今現在でおそらく450くらいはこの問題に引っかかっていると思いますよ」。

 免責条項とは法律用語の1つで、この場合は善意に基づく違反行為であるため、本来課されるべき責任が免除されることを意味する。

問題の規約に対するコミュニティーの受け止め方

 ウッドフォード氏の発言は、基本的には正しいのであろうが、その一方で誇張されすぎている面もあるようだ。例えば、よく知られたKnoppix live CDの開発者であるクラウス・クノッパー氏は、自前のソースコードのリポジトリを用意しており、要求され次第ソースコードを提供するための準備は整っていると語っている。またCentOSを代表するジョニー・ヒューズ氏も、「これまでもCentOSのディストリビューションでは、変更前後のものも含めて、すべてのパッケージのソースを公開しております。今回のGPLの件に関して言えば、以前よりCentOSはFSFと同じ考えに基づいて活動してきました」としている。同じくPCLinuxOSのメンテナを務めるTexstar氏も、「GPLの規約は知っていたので、すべてのソースコードをDVDで入手できるようにしてありますし、フリーサーバからのダウンロードもできるようになっています」と語っている。

 とは言うものの、大多数のディストリビューションおよびそのディストリビューターは、こうした要件が自分たちに課されていることを自覚していないようである。「FSFからの通知が届くまで、自分たちが改変していないバイナリのソースコードまで公開する義務があるなんて、思いもしませんでした」と、Damn Small Linuxのメンテナを務めるジョン・アンドリュー氏はこう語る。「もっとも、今では既に対応済みです。FSFもちょくちょく電子メールで、そうするよう通知してきますし」。同様にLinuxCD.orgというディストリビューターもソースコードの公開を実施しているが、それは具体的に要求されたFedoraに関するものだけであり、そのほかのものについてこうした措置は執っていない。

 予想に違わず、現状で規約に準拠していないディストリビューションは、この件に関する態度をはっきりさせる気はないようである。例えば、DistroWatchのトップ100の中からランダムに2ダース分の中小ディストリビューションを選択して、そのWebページを探索してみたところ、ソースコードのダウンロード用リポジトリを用意していたところは数件でしかなく、要求されれば提供するとしていたところは0件であった。規約を順守している者が極めて少数であるという現状は、これらのメンテナたちは自分たちが規約に違反していることに気づいても、それを公にしたくはないという意識があることを伺わせ、ある意味非常に大きな問題かもしれない。最も単に、規模の小さいところにとっては、こうした要求に応えるよりも、本来の作業に集中したいというのが本当のところかもしれないが。という訳で、先のウッドフォード氏の掲げた数字は不正確なものであるにしても、ディストリビューションの大多数はGPLに定められた要件そのものを知らない、という同氏の主張はどうやら核心をついているようである。

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