コラム
» 2006年07月18日 08時00分 公開

温故知新コラム:日米IT業界最大の著作権紛争が決着した日

産業界において知的所有権を巡る国際的な争いは、今もあちこちで発生しているが、その引き金となった象徴的な出来事と言えば、1980年代に巻き起こった米IBM と富士通の著作権紛争だろう。今回ご紹介する写真は、その紛争が決着したことが明らかになった記者会見のひとコマである。

[松岡功,ITmedia]

 時は1988年12月2日。都内ホテルで行われたこの会見のひな壇に上がったのは、この紛争の解決に向けて米国仲裁協会(AAA、トリプルA と呼ぶ)から仲裁人として任命されたAAA 会長のジョン・L・ジョーンズ氏およびスタンフォード大学教授のロバート・ハリス・マヌーキン氏(いずれも当時の肩書き)。まさにこれから会見が行われようというタイミングだけに、張りつめたムードが漂っている。

仲裁人 ジョン・L・ジョーンズ氏(左)とロバート・ハリス・マヌーキン氏(右)

 日米IT業界最大の著作権紛争として歴史に刻まれたIBMと富士通の争いは、1983年に両社の間で結ばれたメインフレーム用OSを中心としたソフトウェア使用契約において、富士通が違反したとしてIBMがAAAに提訴したのが始まりである。裁定に乗り出したAAAは仲裁人を任命し、さまざまな観点から解決への方策を模索し、1987年9月に裁定内容を発表。その骨子は、(1)AAAを含む第三者の監視下で富士通はIBM互換OSの開発に関する情報を有償で入手できる、(2)富士通の著作権侵害は認めなかったが、IBMに対し1年内に仲裁人が定める金額を一括支払いする、(3)この命令の有効期間は5〜10年内――といったものだった。

 つまり、IBMのOSにおける著作権を認めた上で、IBMが非公開にしているOSの著作権の及ぶ範囲を限定し、富士通に有償で公開すべきだとし、IBMの意向に反して“IBM互換ビジネス”を認めたのである。

 さらに、勘所となる著作権侵害について仲裁人は、「富士通に何ら不適正な行為は認められない」(のちに「事実認定しなかった」との表現に訂正)との見解を表明し、この点でもIBMの主張を退けたような格好となった。そのため、当時は一部で「事実上、富士通の勝訴」との報道もあったほど、AAAの裁定は富士通有利に見えた。しかし時が経つにつれ、業界の間では決して富士通の勝訴と言えるような内容ではないとの見方も広がっていった。その根拠としては、IBMがその後もソフト保護強化の基本路線を何ら変更しておらず、むしろ有償化という方向に戦略転換して一層のソフト保護強化を図った、と見ることもできたからだ。

 そして1988年12月2日。AAAは先に発表した内容に基づいて最終的な裁定を11月29日に下し、仲裁人が来日して会見を行った。最終的な裁定の骨子は、(1)富士通によるIBMへの一括払いライセンス料金は、すでに支払った分を合わせて総額8億3,325万ドル(当時の円換算で1,000億円余り)とし、今後の新規支払額2億3,724万ドル(同約290億円)を15日以内に支払う、(2)富士通は1997 年6 月25日までにリリースされるIBMのインターフェイス情報を抽出することができる――といったものだった。

 これにより富士通は、IBMの知的所有権を尊重し相応の対価を支払うことで、堂々とIBM互換ビジネスを継続できることになった。一方、IBMは自らのインターフェイス情報について、AAAの定めた情報開示施設(SF=セキュアド・ファシリティ)の求めに応じ、その枠組みの中で富士通に有償で提供する義務を負った。SFが第三者的な立場の厳粛な情報監視機関の役割を担うことになったのである。

 では、この両社の著作権紛争、本当はどちらが勝者だったのか。最終的な裁定によって、IBMは国際的に知的所有権保護への姿勢の強さを見せつけた。一方、富士通は向こう10年にわたってIBM互換ビジネスを継続でき、既存顧客への影響も一切出さずに済んだ。その意味では両社痛み分けだったと言えよう。

 しかし、1990年代に入って急速に進展したオープンシステム化の動きによって、メインフレームの需要が減少傾向となり、今ではこの裁定に示された両社間の情報やりとりなど見る影もない。両社は現在もグローバルで激しく競合する関係にあるが、一方でオープンシステムの象徴であるJava環境の普及・整備などでは協調する動きも見せている。

 いま思えば、そんな両社が演じた日米IT業界最大の著作権紛争の「決着の日」が、IT市場そのものの歴史的なターニングポイントだったのかもしれない。

このコンテンツはサーバセレクト2005年5月号に掲載されたものを再編集したものです。


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