シャア専用ズゴックの一撃に沈むジムはなぜ美しいのか商品企画最前線(1/3 ページ)

「モジュール化された製品だから無機質である」という結論にたどり着くのは必ずしも適切でないことをシャア専用ズゴックの一撃に沈むジムは教えてくれた。

» 2006年07月23日 00時59分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

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 製品ライフサイクル管理(PLM)の特集を展開していく中で分かったことは、競争の激しい市場環境でいかに製造コストを抑えるかに製造業者の意識が集中していることである。部品の共通化、標準化、モジュール化といったキーワードを聞いて、効率の追求として納得する一方で、無機質な感覚を覚える人も少なくないのではないか。

 しかし、「モジュール化された製品だから無機質である」という結論にたどり着くのは必ずしも適切でない。

 アニメ『機動戦士ガンダム』をご存じだろう。サンライズが制作し、1979年から80年にかけて放映された伝説的なロボットアニメである。中でもファンの間で名場面の1つとして挙げられているのが、南米ジャブローの基地において、ジオン軍のシャア大佐が操縦する「シャア専用ズゴック」という赤いモビルスーツが、その鋭い刃の付いた右腕で、連邦軍の量産型モビルスーツ「ジム」のコクピット部分である胸部を一撃で貫き、ジムが地に沈んでいくシーンである。

 検索エンジンの画像オプションで、「ジム ズゴック」でサーチすれば、そのシーンをプラモデルによるジオラマで再現した人の誇らしげな作品に出会うことができる。

 この場面で人々の心を打ったのは、シャア専用ズゴックの鮮やかな攻撃力では決してない。そうではなく、ジムが崩れ落ちる様なのである。

 ジムは、量産型ガンダムとして開発された。連邦軍の切り札として作られたガンダムとは異なり、それこそモジュール化された部品で製造され、コスト削減のために装甲も薄い。実はそれは、製造業者がPLMシステムによって目指す、低コストで効率的に開発できる製品と同じコンセプトなのである。

 だが、量産型モビルスーツであるにもかかわらず、ジムは人々の心を打った。考えてみれば、機動戦士ガンダムの中で一番人気があるモビルスーツは、ガンダムではなく、ジムと同様に量産型モビルスーツであるジオン軍の「ザク」であるともいわれている。

 なぜ、ジムあるいはザクは量産型であるにもかかわらず、無機質とはとらえられず、崩れ落ちる姿で人を感動させることができたのか。PLMによる効率重視の商品開発を進めていく上で、決して無視できない事柄だ。

 理由は、視聴者がジムに自己投影し、感情移入しているからという以外に考えようがない。ガンダムやシャアのような特別な存在になりたいと思ってヒーローを追いかける心情がある一方で、等身大のモノに自分を写し出そうとする心理があるのも人のさがである。

 モビルスーツとしては特に取りえがない量産モデルのジムは、戦争という大義を前に戦う以外の選択肢がなくなったとき、自らの弱さを顧みることも、目の前の敵が到底かなわない相手であることを知って逃げ出すこともしない。大義を果たすためにただ戦おうとする姿に、潔さと美しさを見る者は感じ取るのである。

 ここで分かることは、量産型だから、モジュール製造だからという理由で、無機質な存在になってしまうわけではないということである。

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