ブログは個人の記録、SNSは人とのつながり新たな情報手段「ブログ/SNS」の現状とこれから 第3回

ブログやSNSについて利用者側の観点を客観的にとらえたアンケート調査となる「ブログ・SNS利用動向調査」(※1)の結果と、そこからブログとSNSの今後を読み解くことにする。

» 2006年07月28日 08時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

  ブログやSNSのような生活者自身による情報発信において、重要な問題となってくるのはプライバシーである。アンケート調査では、個人のプロフィール情報の取り扱いについての質問も設ける一方で、自身のブログの存在やSNSに参加していることを知られたくない他人がいるかどうか、いる場合、それはどのような人かということについても尋ねた。その結果は下グラフのとおりである。

NEC総研「ブログ・SNS利用動向調査」より設問「ブログやSNSをやっていることを知られたくない人は?」の回答結果

 ブログやSNSをやっていることを知られたくない人が「いない」と答えた人は、ブログ利用者(※2)ではわずか全体の3割、SNS利用者(※2)でも同4割だった。これはやや意外な結果だ。そもそもブログはウェブサイトであるから、基本的にはすべての人に開かれたものである。またSNSも招待制の会員サービスとはいえ、特定の人の参加の可否を一個人の判断で決められるわけではない。いずれにしても、いつだれがアクセスして来るかが分からないのが必然であるにもかかわらず、それでもそこにある種の秘匿性を期待できるのは、ネット社会特有の匿名性によるところが大きい。

 知られたくない人として「家族や親戚などの身内」をあげる人はかなりの割合で存在した。同様に学校や職場などで関係のある人をあげる人も少なくない。実名での参加が中心となっている米国と比較して、いまだ匿名性が主流となっている日本の状況の良し悪しを一概に判断することは難しい。しかし、企業などでの利活用を考える上で、そのことがある種の制約になり得ることは事実だろう。

 ちなみに、自分のブログで実名公開している人は全体の1割、SNSでもおよそ3分の1にすぎない。

ブログ・SNSのこれから

 第1回(新たな情報手段「ブログ/SNS」の現状とこれから 第1回:ブログ利用者の約半数は複数運営)、第2回(新たな情報手段「ブログ/SNS」の現状とこれから 第2回:想像をはるかに超える利用者のマメさ)を含め、こうしてアンケート調査を紹介することによって、生活者におけるブログやSNSの利用動向の現状を理解していただけたと思う。

 ブログやSNSは最近にわかに注目されている領域であるだけに、今後の展開にはまだ流動的な部分があることは否定できない。しかし調査結果を見る限り、生活者の間にこれらの手段がかなり定着しつつあることは間違いないように思える。いずれのサービスについても回答者の多くが、実際にやってみて自身に何らかの良い変化がもたらされたことを認め、さらにいろいろな取り組みをしていきたいと前向きな姿勢を見せている。

 ブログとSNSは非常に共通点の多いサービスだが、生活者の中にはそれぞれ使い分けている人が一定の割合で存在することが分かった。極めて大ざっぱにいえば、ブログは自分の記録として自己完結的に取り組まれている側面があるのに対して、SNSは人とのつながりや交流に重きを置いていることが見て取れる。

 それぞれのサービスの今後については、おのおのの利点をベースに両者が次第に統合されていく方向を予見する専門家も少なくない。アンケートでは、両方のサービスを利用している人に対して現在どちらのサービスに力を入れているかを尋ねたところ、ブログと答えた人が4割強だったのに対し、SNSは3割弱という結果だった。

 表現の手段というものは、人間が表現のために必要とする能力を養う道具でもある。その意味で、これらのサービスが持つポテンシャルに全く未知の部分があることは間違いないだろうが、一方で(特に現状の利用動向を指摘して)そうした期待が過大評価であるとの意見もある。しかし、その問題は今後、これらの手段がさらに多くの人に、広く、そして深く利活用されるにつれ、解明されることになるだろう。現在はまだ若者を中心に先行的な利用にとどまっているこれらの手段が少しでも多く普及し、新たな情報手段として確立していくためには、サービスの向上とともに、個々人がまず使ってみるという姿勢が重要だと思う。今回の調査対象を利用者という視点に絞ったのも、そういう思いからであったことを最後に付け加えておきたい。

 今回の調査結果は6月15日、「ブログ・SNS利用者の実像〜人々は何を求めているのか〜」として発売された。興味を持たれた方は、下記サイトまでアクセスしていただきたい(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第三回」より。ウェブ用に再編集した)。

※1  NEC総研がインターネットを使って3月に実施した。ブログとSNSについてそれぞれ、実際に自己表現や情報発信、参加という意味で能動的に活用している生活者800人をあらかじめ特定し、ブログあるいはSNSのいずれか一方だけ、そして両方を利用している人という3グループで、それぞれ同じ人数を集めた。このようにグループ分けしてグループ間の比較を可能にした。基本属性の内訳は、男女比が半々で、それぞれを4つの年齢層に分けた。調査項目では、サービス事業者別の動向に関する視点は極力排し、ブログやSNSというサービス一般の固有の機能に関する質問を中心に、両者の類似性にも配慮する形で設定した。質問群はそれぞれのサービスごとにまとめ、両方のサービスを活用しているグループには両方の質問群について回答を得てある。

※2 「ブログ利用者」「SNS利用者」はそれぞれ、両サービスの利用者も含む。

成川泰教(なりかわ・やすのり)

株式会社NEC総研 調査グループチーフアナリスト

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手がけている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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