ソニー生命と出光の事例で垣間見えるSOAの本質動き出したSOAのいま(2/3 ページ)

» 2006年09月07日 08時00分 公開
[谷川耕一,ITmedia]

ソニー生命保険の場合

 出光興産のESBを導入した事例に対して、ソニー生命保険の場合は、従来から活用しているメインフレームによる基幹系システムを中核にSOAを実現した。ESBなどのいわゆる「SOA用の仕組み」を導入していないのである。

 生命保険業界では、ビジネスそのもののサイクルがほかの業界に比べて極めて長期にわたるという特殊な事情がある。例えば、20歳で新規に生命保険に加入し、平均寿命まで人生を過ごせば、60年以上の間そのデータは保持され更新されていくことになるのだ。

 さらに、たくさんの新商品が次々と開発され、商品の価格バリエーションも数多く、商品自体もかなり複雑なものとなっている。そうした事情が、ITシステムへの制約となっているという。

 ソニー生命保険で業務プロセス改革本部 情報システム2部 統括部長を務める河村芳樹氏は「ほとんどの生命保険会社は、競争の激しい中でメインフレームを活用している。レガシーシステムを、ビジネスのスピード感覚でどうやって活用していくかが大きな課題となる」と話す。

ソニー生命保険の河村芳樹氏

 IT業界でメインフレームやレガシーというと、どうしてもそれらはネガティブなキーワードに聞こえてしまう。ところが、メインフレームはこれまでの業務で培ったノウハウやビジネスのルールなどの貴重な資産であることに疑いはない。これらをうまく利用できないと競争の足かせになってしまい、メインフレームの基幹システムをビジネスの推進力にするのは難しいという。

 「メインフレームの中を変えると、既存のサービスのグレードを下げてしまう可能性がある。それなら、今あるシステムをうまく活用するほうが、開発もテストや検証も少なくできると判断した。フロントエンドの部分は変化が激しいので、それに対しては何らかのゲートウェイを実装することで対応している。仮に、何か新しいシステムを作ったとしても、ビジネスのライフサイクルの長さの問題もあり、メインフレームは残る。2つのシステムをメンテナンスするよりは、1つでやるほうがいいと判断した」(同氏)

 一般に、メインフレームではフローとロジックが一緒になっているため、再利用しにくい構造になっている。ソニー生命保険では、ワークフローとビジネスロジックをきちんと分離し、新しい商品が入ってきてもシステムを使い続けられるような工夫がなされていた。

 生命保険は期間が長く、長い間使えるもの、再利用できるものをという信念に近いものがある。それに基づいて進めてきた結果、メインフレームの中にサービス単位で再利用できるモジュール構造ができていたというのだ。プレゼンテーション部分、ビジネスロジック、そしてデータがきちんとビジネスの単位で分けられていることで、再利用性が高く、柔軟性のあるシステムが実現する。

 同社では、基幹系以外のシステムについては独自に作るメリットはあまりないと判断し、なるべくパッケージ製品を活用しているという。すべてを統合パッケージで再構築するというのも統一された使いやすさがあっていいかもしれないが、新しい技術が出てきたときに結局は入れ替えることになり、その手間は大きくなる。

 一方で、機能ごとにシステムが分かれていれば、適宜入れ替えて使うことができるのだ。その代わり、統一的なインタフェースを構築するため、ポータルの仕組みを導入している。ポータルであれば、「裏」のシステムが仮に変更されても、インタフェースは統一できる。

 逆に、使い勝手を重視し、キーボード中心の入力ができる「3270エミュレーション」の入力画面をあえて残している部分もある。特定の事務処理業務についてはこの画面の方がいいという。目先のコスト削減だけを考えると、安易に「Webインタフェースに統一しましょう」という話になりがちだが、コスト削減の効果は一度きり。その後のビジネスの成長を生み出してくれるわけではない。最新のテクノロジーが常にベストな選択とは限らないのだ。システムとして、根本的な変化対応力を持てるかが重要だ。

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