オープンソースのグローバル化が組織と個人に恩恵をもたらす(1/2 ページ)

オープンソースのグローバル化、すなわち自宅で作業する世界各地のソフトウェア技術者たちによるオープンコラボレーションは遅かれ早かれ、ソフトウェア会社の大半で本格的に採用されるようになるだろう。これにより、どのような利点が得られるだろう。

» 2006年10月19日 15時07分 公開
[Christof-Wittig,IT Manager's Journal]

 オープンソースソフトウェアは、世界中に分散した実質的に管理のオーバーヘッドが生じない個人協力者からなる大規模ソフトウェアプロジェクトの管理に役立てることができる。オープンソースの考え方が商用ソフトウェアの業界にますます浸透するにつれ、こうしたオープンソース現象(「オープンソースのグローバル化」とわたしは呼んでいる)の特性は、技術系の仕事に対してIT業務のオフショアリング以上に大きな影響を与えているかもしれない。しかし今回は(ITのオフシェアリングの場合と違って)、この変化を受け入れる人々にとってはそれほど悪い話ではない。

 オープンソースのグローバル化、すなわち自宅で作業する世界各地のソフトウェア技術者たちによるオープンコラボレーションは遅かれ早かれ、ソフトウェア会社の大半で本格的に採用されるようになるだろう。なぜなら、1つの拠点でクローズドソースの開発を行う従来のやり方よりも大きなコスト上の利点があるからだ。こうした利点が得られる背景には、次のような要因がある。

  • 地域を問わず世界中どこででも(しかも多くの場合は低コストで)適材適所に基づく雇用が可能。
  • 際限がなく非効率的な会議に象徴される階層的で対面式の同期的なやりとりではなく、組織階層がなく非同期なインターネットベースのコミュニケーションによる生産性の向上。
  • アイデア、コード、バグリポート、対処策など与えられた課題に取り組んでくれる組織内外のあらゆる人材に対する権限の委譲。
  • ウォータフォール方式の設計・コーディング・テストというアプローチではなく、より迅速で反復的なソフトウェア開発モデルの実践と採用による、従来のソフトウェアプロジェクトにありがちな多くのリソース配分ミスの回避。

 今日、従来のソフトウェア会社のほとんどは、依然として従業員を自宅に帰して在宅勤務させることに難色を示している。IBMに勤務しながらオープンソースJavaの「Harmony」プロジェクトに携わっている技術者に話を聞くと、プロジェクトのほとんどすべてがオープンソース化されているというのに、いまだに彼は上海にあるオフィスに毎日出勤しなければならないという。このように、個人からなる分散化されたチームでの開発に従来のソフトウェア企業が消極的である大きな理由として、管理上の影響力の低下、現行のインセンティブ体系とのミスマッチ、対面式コミュニケーションへの依存、そして――クローズドソースの会社の場合は――知的財産権の支配権が失われるという不安が挙げられる。

 それでも、オープンソースの企業db4objectsの経営やスタンフォードでMySQLなどの研究に携わってきたわたし自身の経験から見れば、相当なコスト削減が実現できると思われる。そのためわたしは、このトレンドが2001年来のITオフショアリングの波以上にこの業界に変化をもたらすという予測に自信を持っている。従来の企業は、オープンソースのグローバル化という方針を採用するか、それをせずに競争力を失うかのどちらかだろう。

グローバルなオープンソース企業

 MySQL、JBoss(現在はRed Hat傘下にある)、db4objectsなどは、Linux、Apache、Wikipediaといった非営利プロジェクトが開拓したグローバルオープンソースのやり方を早くから取り入れてきた急進的な企業の例である。

 こうした企業のグローバル性は、General MortorsやIntel、JP Morganにも劣らない。どの会社も米国に本社や資金はあるとはいえ、主要な開発者は欧州、ロシア、ブラジル、オーストラリアにいるし、各社のCEO(最高経営責任者)も最近になって米国にやってきた人々である。

 こうしたグローバルなオープンソース企業では、技術者の4人に3人が在宅勤務をしている。彼らはインターネットを介して雇用され、採用面接で会社に来たことさえない人々がほとんどである。シベリアのノボシビルスクでも中国の成都でも、あるいはフロリダ州アーケーディアでも、どこに住んでいようと関係はない。大事なのは、彼らのスキルであり、ユーザーまたは開発者としてのそれぞれのプロジェクトへのかかわり方、インターネット上の国際共通語(英語)を使ってメールやニュースグループで効果的にコミュニケーションする能力、Eclipse、Ant、Subversion、Jiraといったオープンソースツールを利用して協調的かつオープンなスタイルで働く能力である。また、ブロードバンド接続も必須ではない。

 オープンソース企業はきわめてフラットな組織構造になっていて、製品のロードマップにかかわるような戦略的な議論はまさしくユーザー駆動型であり、機敏なプロジェクト管理を特徴としている。例えば、db4objectsには技術部門のトップがいないし、MySQLではマーケティング担当副社長のザック・ロッカー氏が技術部門を統括している。製品のロードマップ、バグ、拡張機能、次回のリリース予定といった情報はすべて公開され、ユーザーコミュニティーはこれらについて自由に議論できる。

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