特集
» 2006年10月31日 08時00分 公開

驚愕の自治体事情:変わりゆく地方財政再生制度

もし、あなたの住む自治体が財政危機に陥ったら……。実質収支が赤字の団体も数多く存在するだけにあながち笑い飛ばすこともできないが、総務省でも「新しい地方財政再生制度研究会」などでこうした財政危機対策の議論を深めている。

[早川みどり,ITmedia]

このコンテンツは、オンライン・ムック「驚愕の自治体事情」のコンテンツです。関連する記事はこちらで一覧できます。


 自治体の運営において、財政がその根幹を支えていることは言うまでもない。各自治体が厳しい台所事情の中、さまざまな経営戦略によって歳出を削減している。しかし、総務省が3月に発表した「平成18年版『地方財政の状況』の概要」(PDF、1.87Mバイト)によると、2004年度決算において、実質収支が赤字の団体は、都道府県1団体(大阪府)、市町村25団体の合計26団体、さらに、市町村合併に伴う打切り決算(市町村合併などで出納整理期間中の歳入歳出がないこと)により、これ以外に51団体が赤字となっていることが明らかとなった。なお、深刻な財政破たんに陥り、後述する財政再建団体への申請を議会で可決した北海道夕張市はこの25団体に入っていなかったことを考えると、実質的には自転車操業によって見せかけの財政黒字になっているケースは少なくないと推測される。

 こうした中、総務省は、自治体が財政危機に陥らないよう指導し、万が一財政危機に陥った場合も再生をスムーズに行うための法整備をめざし、北海道大学公共政策大学院院長の宮脇淳氏を座長とする「新しい地方財政再生制度研究会」を8月から開催している。これまでに5回開催され、その中間報告が9月に発表された。

 従来の財政再建は、1955年に成立した「地方財政再建促進特別措置法」に基づいて行われてきた。その再建方法には「自主再建」と「準用再建」の2つが存在するが、一般に財政再建団体とは、準用再建による再建を行う準用財政再建団体を意味する財政再建準用団体である。この場合、国から財政上の優遇措置を受けることはできるものの、国の指導・監督の下、財政再建計画を策定し、歳入・歳出の両面で厳しい取り組みが求められる。つまり、施策の見直し1つを見ても、その優先度や重要度、あるいは地域性などを踏まえた自主的な見直しが行えないことを意味しており、この点において、自治体としては何としても自主的な財政再建に取り組む必要がある。

 現行の制度には、幾つかの問題が指摘されている。まず、分かりやすい財政情報の開示が行われていないため、早期に立て直そうとする意識が抜け落ちていること。再建の基準しかないため、早期是正を促す機能がないこと。フロー指標(実質収支赤字比率)だけを使っているため、財政悪化に気付くのが遅れてしまうこと。また、ほかの指標が悪化した団体や、ストックベースの財政状況に問題が生じた団体への視点が抜け落ちていることも問題とされた。フロー指標の基準が長期に渡り見直されず、指標としての役割を果たしていないのが現状である。

 そして最も問題なのは、「いざとなれば国がなんとかしてくれる」という潜在的な甘さにある。今までの財政再建は、国が地方自治体の借金を穴埋めする形で行われてきたからだ。

 これに対し、新しい地方財政再生制度研究会では「早期是正スキーム」という段階を作り、財政がひどく悪化する前に自分たちの力で立て直す機会を作る。早期是正スキームには客観的な指標を用いて、指標が悪化したらすぐ取り組みようにする。それでも改善できない場合には「再生スキーム」に入る、という2段構えの体制を取る。現行法では再生スキームしかないため、再生に入った段階では既に財政がひどく悪化してしまっている、という問題を回避するためだ。

 早期是正スキームは、「地方分権21世紀ビジョン懇談会報告書」の内容を踏まえて行われるが、再生スキームの場合は「地方行財政制度の枠組みの中での再生」と「地方行財政制度の抜本的改革を進展させての再生」の2段階に分け、財政改善の状態を見つつ、前者で改善しなければ後者へと段階的に進める。

 また、今までは対象となるのは地方自治体だけだったが、それでは関連した他団体の財政状態を同時に把握できないため、公営企業、事務組合、地方独立行政法人、地方公社、第三セクターにまで広げる。

 これらのスキームを的確に機能させるには、財政指標の整備と徹底した情報開示が必要とされる。まず、フロー指標とストック指標(将来の負担にかかわる指標)を整備し、はっきりとしたルールの下で開示を徹底する必要がある。

 指標という客観的な数字と、それを適切に扱う第3者によって、財政悪化を未然に防ぎ、自力での改善を行えるよう指導していく、という方向で中間発表はまとめられたが、自力での再生が不可能と見なされた自治体に対しては、国や都道府県の介入も視野に入れている。その具体的な方法と地方公共団体の扱いが、これから煮詰められることとなる。

 10月23日に開催された第5回の研究会では、財政指標が一定の基準を超えた場合、自治体に再生計画の策定を義務付ける方針が固められた。いわば、早期是正措置の段階で国の積極的な関与を認める内容で、自治体の自主性とのバランスが問われることになろう。具体的な法案成立の時期を明らかにしているわけではないが、来年の通常国会での改正を目指しているとも言われるだけに、研究会の動向に注目したい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ