「従業員不満足」がCS低下を招く企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第16回(2/3 ページ)

» 2006年11月15日 09時00分 公開
[増岡直二郎,アイティセレクト]

CSの前提としてES優先させる企業は稀

 ESとCSの因果関係についてのデータが、米国企業の調査で示されている(ジェームス・ヘスケット、他著「カスタマー・ロイヤルティの経営」日本経済新聞社 から要約)。

@ESとCSとの間に、99%の因果関係が認められた(MICコミュニケーション、ウエスタン・ユーロピアン・マネー・センター銀行、メイジャーUSトラベル・サービス、ランク・ゼロックスの各社で見られた例)。

ACSが平均水準以上に得られた店舗の78%が、ESでも平均水準以上だった(チッキンフィレ社で見られた例)。

B ESが1%増加すると、CSが0.22%増加する(メリー・メイド社の例)。

 一方、ESと企業業績との関連について、直接的説明ではなく間接的説明になるが引用させてもらうと、ESを最も満たす人材マネジメントが業績に最も貢献しているという研究結果が報告されている(三菱総合研究所「所報」43号掲載論文、稲垣公雄)。

 このようにESの重要性が主張されるなか、事実ESをうまく運用している企業の例はある。

 例えば情報関連企業I社の関連会社に勤務する某氏は、「私どもの親会社I社では、『ESがCSを生む』ということをトップが正しく了解していて、そのための施策を常に行っています。4半期毎のESアンケート調査、経営トップとのミーティング、その他。私は経営トップの見識と姿勢に大変満足し、信頼しています。私は幸せ者です」と認識している。

 あるいはF社の例だが、2万人近い本社の従業員を対象に、「モラールサーベイ」と称してオンラインで無記名アンケートを行い、職場や上司をどう見ているか、教育は効果的か、人事評価のフィードバックはなされているか、企業理念は尊重されているかなど、60問の設問で毎年1回問うシステムがある。毎回、調査対象者の約80%の回答が期待できるという(「日経情報ストラテジー」05年3月号)。

 しかし筆者の実務・コンサルタント経験あるいは見聞からして、CSの前提としてESを優先させるケースは稀である。特に90年代以降「企業は株主のためにある」という米国の企業観が主流となり、「企業はお客や従業員のためにある」という日本的企業観が後退をしてから、その傾向は一層強まった。確かに企業のオーナーは株主であるのに、従来の日本では企業のステークホルダーの中で株主は軽視されてきた。しかしその反動が大きすぎる。

 効率化、BPR(Business Process Reengineering)、リストラなどの大義名分の下に行われた施策は、ESを軽視する結果を招いた。時代の要請として必要な施策は当然実施されなければならないが、一方で多くの日本的経営の良さを捨てすぎた。

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