裏方から表の世界へ、ブランディング戦略を強化するCiscoCisco C-Scape 2006

Cisco SystemsはLinksysやScientific Atlantaの買収、アスレチックスのスポンサードなどを通じてコンシューマー向けのプレゼンスを強めつつある。

» 2006年12月14日 19時43分 公開
[鈴木淳也,ITmedia]

 ネットワーク業界の巨人Cisco Systemsは、業界人にとってはメジャーネームだが、ITとは縁遠い一般の人からすれば「知る人ぞ知る」という存在だ。あくまでネットワークのインフラを提供する企業という姿勢を徹底してきたこともあり、表舞台にその名前が出てくる機会が少なかったのは必然かもしれない。だが、そうした状況も少しずつ変化しつつある。

 転機の1つはLinksysの買収だ。Linksysは個人や小規模事業者向けのネットワーク機器を開発/販売するメーカーの最大手である。Linksys買収を機会に、Ciscoはこれまでの通信キャリアやエンタープライズ向けの市場に続く、SOHO向けネットワーク機器という第3の市場へと参入することになった。

 Ciscoはこの買収後、Linksysのスポット広告をテレビで積極的に流したが、その際は「Linksys powered by Cisco」のロゴを表示し、自社のブランド名を前面に押し出している。「Cisco」という名称を前面に押し出して一般消費者に向けてメッセージを打ち出すのは、同社にとってこれが初めてだった。

 それから3年。10月には、それまで10年以上にわたって使用してきたロゴマークを変更し、従来のやや硬いイメージから一転、ややソフト路線へと転向している(関連記事)

メジャーリーグをプロデュース「Fremont A's」

 「Cisco」の名前は、今後、いっそう一般消費者の目にとまることになるだろう。

 米地方紙のSan Francisco Chronicleなどが11月初旬に報じたところによれば、メジャーリーグ(MLB)のアスレチックス(A's)が、本拠地を現在のオークランド(サンフランシスコ対岸の都市)から、さらに南側にあるフリモントへと移転する計画だという。アスレチックスの本拠地移転に合わせてフリモントに新球場が建設されることになるが、そのスポンサー企業に内定しているのがCiscoだ。

 シリコンバレーのあるサンフランシスコ湾周辺の「ベイエリア」には、IT企業スポンサードのスタジアムが多数ある。

 古くは、NFLの49ersの本拠地となっている3Com Park、NHLのSan Jose Sharksの本拠地HP Pavillion、MLBのSan Francisco Giantsの本拠地AT&T Park(旧Pac Bell/SBC Park)やOakland A'sの本拠地McAfee Coliseumと、メジャーネームがずらりと揃う。今回のアスレチックス移転によって、Ciscoはこのビッグネームに名前を連ねることになる。

 同社がMLB球場のスポンサーになる兆候は、発表前から見ることができた。10月下旬にサンフランシスコで開催されたOracle主催のカンファレンス、「Oracle OpenWorld 2006」において、Ciscoの会長兼CEOのジョン・チェンバース氏が初めて基調講演に登壇し、同社の最新の試みを紹介した。

Oracle OpenWorldで紹介されたデモンストレーション。ビデオ電話システムを使って、野球の試合を見ながら遠隔地の友人と歓談する

 その講演の中で最も目を惹いたのが、最新のネットワーク技術の数々を使ってメジャーリーグを楽しむというデモストレーションだ。

IP電話端末を使って、試合情報をチェック

 チケットのオンライン予約から始まり、携帯端末を使った球場での無人チェックイン、会場にいるユーザーの携帯端末へのリアルタイム情報配信、監視カメラをネットワークで結びつけたサーベイランス(Surveillance:監視)システムなど、最新技術やギミックを使った仕掛けやセットをわざわざ基調講演会場で再現した。

チケット予約後、球場の自動チェックイン機に携帯電話のバーコード情報を読ませてチェックインする
IPネットワークを駆使した球場内のサーベイランスシステム

 そのとき会場にいた人々の多くは「なんでCiscoがメジャーリーグを?」と疑問に思ったに違いない。しかし今にしてみれば、「Fremont A's」誕生ならびにCiscoによるメジャーリーグのプロデュースへの布石だったのだろう。

 アスレチックスのフリモント移転には、まだ1〜2年はかかると思われるが、Ciscoの名前が広く一般に知れ渡るのは、そう遠くない将来の話だと思われる。

コンシューマー市場へのフォーカスが強まる

 「ネットワークインフラに関わるすべての分野でのNo.1」を目標に掲げるCiscoでは、エンタープライズやキャリア向け市場でのシェアを武器に、コンシューマー市場でもシェア拡大を狙う。これまで裏方の存在であった同社にとって、ブランディング戦略はコンシューマー市場での認知を高めるための重要な鍵となる。

 コンシューマー市場へのフォーカスが強まっている別の兆候としては、2007年1月に米ネバダ州ラスベガスで開催される家電向けの総合展示会、「International CES」への出展が挙げられる。CESでCiscoが大々的にブースを構えて展示を行うのは初のケースで、コンシューマー市場へのコミットを強めている顕著な例だといえるだろう。

 このコンシューマー市場で同社が期待を寄せるのが、IPTVやIPテレフォニーに代表される、IPネットワークを使ってビデオ/音声/データを統合した、いわゆるコンシューマー向けのトリプルプレイサービスである。この分野への参入の契機となったのが、2005年11月の米Scientific Atlantaの買収だ。

 Scientific Atlantaは、CATV向けのセットトップボックス(STB)メーカー大手の1つ。この買収によりCiscoは、放送業界に深く食い込むことが可能になり、IPTV構想実現に向けて大きく前進することが可能になった。

 特に、米国市場においてはCATVがコンシューマー向け通信インフラの基幹となっている側面もあり、これがIP統合実現のための一番の近道ともいえる。事実、Scientific Atlantaの買収は、発表から1年を経て大きな相乗効果を生み出しつつあるという(関連記事)。両社のソリューションが補完関係となり、システム提案力が増したからだ。

 今後数年で、Ciscoのブランドがどのように一般に浸透していくのか、特にコンシューマー市場での広がりに注目したい。また米国だけでなく、世界各国でのブランドイメージの変化を見ることで、それぞれの国の特色や文化を知ることもできるだろう。

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