モバイルコンピューティングを強力にサポートするVista(2/2 ページ)

» 2006年12月25日 08時30分 公開
[Michael Cherry,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版
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同期センター

 同期センターは、PC(モバイルPCを含む)とほかのデバイス、例えばデスクトップPC、ネットワークサーバ、携帯音楽プレーヤー、デジタルカメラ、携帯電話などの間で、ドキュメント、画像、音楽、連絡先などのファイルを同期しやすくすることを目的としている。同期センターでは、あるデバイスから別のデバイスにファイルをコピーできるだけでなく、異なる場所に保存された同一ファイルの複数バージョンについて一貫性を保つこともできる。ある場所であるファイルに対する追加、変更、または削除が行われた場合、同期センターは別の場所で、そのファイルの、こうした操作が加えられる前のバージョンに対して追加、上書き、削除を行える。

 また、同期センターは、Vista Business/Enterprise/Ultimateの各エディションでは、オフラインファイルの管理にも使われる。オフラインファイルはローカルマシンのキャッシュに保存され、元ファイルはネットワークサーバやデスクトップコンピュータ上に保持される。

 同期センターはファイルを同期する際、同期の対象となる双方の場所それぞれのファイルバージョンを比較して、(サイズとタイムスタンプに基づいて)違いがあるかどうかを調べる。違いがあった場合、同期センターはどちらの場所のバージョンを保持するかを決定し(一般に最新のバージョンが保持される)、そのバージョンを他方の場所にコピーし、そこにあるバージョンを上書きする。一方の場所に新しいファイルが見つかった場合(あるファイルがサーバ上にあるが、モバイルデバイス上にはないといった場合)、同期センターはそのファイルを他方の場所にコピーする。ファイルの一方の場所のバージョンが削除された場合、同期センターはそのファイルの他方の場所のバージョンを削除する。

 ファイルが双方の場所で変更され、競合が発生した場合、同期センターはユーザーに、ファイルのどちらのバージョンを保持するかを選択するよう求め、そのファイルの詳細な情報を表示する。表示される情報は、そのファイルの名前、各バージョンの保存されているデバイス、サイズ、変更日などだ。また、同期センターは、そのファイルの一方のバージョンの名前を変更し、ユーザーが両方のバージョンを保持して後で問題解決を行えるようにする。

 同期センターを使用するには、同期するデバイスのメーカーがSync Center APIをサポートしていなければならない。このため、当初は同期センターであらゆるデバイスを同期できるわけではない。このAPIをサポートしないデバイスは、既存の同期ソフトウェアで引き続き管理されることになる。

 同期センターは、デバイスメーカーの同期/設定ユーティリティの代替を目指したものではない。例えば、MicrosoftのWindows Mobileチームは、同チームの既存の同期ユーティリティであるActiveSyncを、ユーザーが同期センターからアクセスできる新しいWindows Mobile Device Centerユーティリティに置き換えようとしている。しかし、同期センターではデバイスの同期を1カ所で設定できるものの、デバイスとともに提供されるサードパーティのアプリケーションは、デバイス設定の管理やトラブルシューティングを行うのにより適しており、同期ユーティリティを含む場合が多い。

Vista SideShow

 Vista SideShowは、コンピュータの電源がオフの場合でも機能する補助ディスプレイに、ユーザーの次回の会議のスケジュールや場所などの重要情報を表示するためのユーティリティだ。例えば、ノートPCユーザーが会議の場所を忘れた場合に、ノートPCのふたに組み込まれた小型LCDディスプレイで会議の出席依頼を確認する、といったことが可能だ。SideShowはリアルタイムデータではなく、直近のデータのスナップショットを表示する。このため、ノートPCの電源を切っている間に、SideShowに表示されている会議について変更があると、ユーザーはその会議の正確な詳細が分からなくなる。

 ハードウェアメーカーはSideShowを利用して、キーボードやディスプレイ、リモコン、携帯電話など、幅広い周辺デバイスに補助ディスプレイを組み込める。こうしたデバイスはVistaベースPC上のSideShow対応アプリケーションから情報を受信して表示する。SideShow対応アプリケーションは、Microsoftやハードウェアメーカー、あるいはそのほかの開発者から提供されることになる。またMicrosoftは、.NET Frameworkの特殊なバージョンを提供し、SideShow対応アプリケーションの開発促進を図っている。

 SideShow対応アプリケーションは、「ガジェット」と呼ばれるが、Microsoftのほかの「ガジェット」技術、例えばWindows Vistaサイドバーガジェット(ユーザーがVistaのシェルに追加できるミニアプリケーション)や、Windows Liveガジェット(パーソナルホームページのカスタマイズに使われるWebベースのミニアプリケーション)とはまったく異なる技術を使用するものであり、これらのガジェットとの互換性はない。Microsoftはこうしたガジェット技術の統一に取り組んでいると述べているが、これは、現在のガジェット技術のいずれかを使って開発されたガジェットが、将来機能しなくなる可能性があることを意味する。

インク/音声認識

 Vistaでは、主に入力パネル(タブレットPCで手書き文字の入力に使われる)と編集およびナビゲーションジェスチャの改良により、インク認識機能が強化されている。認識ソフトウェアは入力を継続的に分析し、ユーザーの文字、数字、単語の書き方を学習することで、精度が向上していく。

 入力パネルの大きな変更点はオートコンプリート機能の追加だ。この機能は、Microsoft Wordなど一般的なプログラムのオートコンプリート機能と同じように動作する。ユーザーが文字入力を始めると、入力候補を表示するようになっている。

 また、Vistaでは、入力パネルで手書き文字や認識された文字を削除するのに利用できる、線を引いて文字を消すジェスチャの種類が増えている。さらに、ペンフリック(素早くナビゲートしたりショートカットを実行したりするためのタブレットペンによるジェスチャ)も改良されており、ペンを使ってアイテムの選択やドラッグを行ったり、コピー、貼り付け、元に戻す、削除といった編集タスクを実行したりする操作が容易になっている。

 Microsoftが2006年7月に金融アナリストミーティングで行ったVistaの音声技術のデモは、口述された言葉のうち正確に認識されたものがごくわずかという無残な失敗に終わったものの、Vistaの音声認識サポートが大幅に強化されているのは確かだ。ただし、音声認識の精度は、使用するハードウェアに大きく左右されるようだ。強力なモバイルコンピュータを利用しなければ、低い認識率しか得られないかもしれない。

小チーム用の新コラボレーション機能は問題含み

 Windowsミーティングスペースは、同じサブネットに属する最大10人のVistaユーザーが共同作業を行える新機能だ。例えば、ミーティングスペースにより、少人数のグループでプレゼンテーションやドキュメントの共有、改善を行ったり、ある参加者がプレゼンテーションをほかの参加者のコンピュータディスプレイに表示したりできる。

 この機能は、Communicator、Groove、NetMeetingなど、Microsoftのほかのリアルタイムコラボレーションアプリケーションと似ており、インスタントメッセージング(IM)クライアントのWindows Messengerを部分的に代替するかもしれない。Windows MessengerはWindows XPの機能だったが、Vistaには含まれていない。

 ユーザーは自分のコンピュータでミーティングスペースによる会議を開始し、ほかの人に参加を募ることができる。参加を募る方法としては、(1)ほかの人に電子メールで招待状を送る、(2)招待状ファイルを作成して配布する、(3)ほかの会議の参加者に、同じサブネット上で実行中のアクティブなミーティングスペース会議を識別できるミーティングスペースアプリケーションの起動を促す――というものがある。招待された人は、招待に応じてパスワードを入力することで会議に参加する。会議における通信はすべて暗号化されており、認証された正規の参加者だけが、共有されているものをすべて見ることができる。

 しかし、ミーティングスペースはIT部門に多くの問題をもたらす。例えば、グループポリシーとの不整合の可能性や、VistaのAeroインタフェースのパフォーマンスの低下、Microsoftの他の多くの技術との重複などだ。

グループポリシーとの不整合 ミーティングスペースはかなり多くのサービスとコンピュータリソースを使用する。その例としてはPeer Name Resolution Protocol、Peer Networking Grouping、Peer Networking Identity Manager、DFS Replicationなどがある。こうしたサービスの一部やミーティングスペース自体が、パフォーマンスやセキュリティ上の理由からネットワークサービスを制限する目的で、グループポリシーで無効にされている可能性があり、そのためにユーザーが起動できない恐れがある。

Aeroの実装 ミーティングスペースは、VistaのハイエンドなAeroインタフェースのあまり優れた実装例ではない。例えば、ほかの参加者のデスクトップを表示する場合に、画面が入れ子になって紛らわしく見えるケースがある。また、ウィンドウの半透明な枠など、一部のビジュアル要素が無効になった、あるいは、カラースキームがVistaベーシックに変更された、というメッセージをユーザーが受け取るケースもある。その原因は、プログラムにWindows Aeroのカラースキームとの互換性がないか、コンピュータがすべての処理を行うのに十分なメモリを備えていないかのいずれかだ。

ほかのアプリケーションとの重複 Microsoftは従来から、それぞれ似た機能を提供するリモートデスクトップ、Communicator 2005、Windows Live Messenger、Grooveというサービスや製品を持っており、同社にさらに別のコラボレーションサービスが必要かどうかは疑問だ。機能が重複したアプリケーションをまた1つ増やさなくても、Microsoftはアドホック機能やポイントツーポイント機能を、これらのサービスや製品のいずれかに簡単に追加できたはずだ。

 ミーティングスペースを差別化するため、Microsoftはこのサービスを、インターネット接続が利用できない場合も含めて随時行われる小規模な対面会議に最適と宣伝している。

 しかし、ミーティングスペースは混乱を招き、サポートコストを押し上げるかもしれない。IT部門はMicrosoftのさらにもう1つのコラボレーションツールをサポートしなければならなくなったり、Microsoftのコラボレーション技術の中で長期的に最も有望なものはどれか、見極めをつける必要に迫られたりするからだ。

モバイルユーザーへの導入を先行させるメリットとリスク

 ミーティングスペースには問題点があるものの、そのほかのモバイル機能の強化により、Vistaはモバイルコンピュータ用の魅力的なOSとなっている。Vistaの評価と導入をどのように始めるかを考えている企業は、一部のモバイルユーザーを最初に移行し、新機能による生産性向上が実現できるかどうかを調べることを、真剣に検討すべきだろう。

 しかし企業は、モバイルユーザーへのVistaの導入を先行させるメリットと、サポート負担が増えるというリスクのバランスを取る必要がある。モバイルユーザーは出張していたり、出先で仕事をしている場合などがあり、問題が発生した場合に彼らをサポートするのはより困難であり、そのコストも高くつく可能性があるためだ。

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