One Laptop Per Childプロジェクトのコスト予測に対する再考(2/2 ページ)

» 2007年01月05日 14時24分 公開
[Lisa-Hoover,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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盗難や転売の可能性

 配布されたラップトップが盗難(およびその後グレイマーケットにて転売)される可能性については、OLPCプロジェクトの支援者および批判者の双方において広く認識されており、推進チームとしても、この問題について何か有効な対策はないかとコンピュータコミュニティーに対して良案を求めているところである。OLPCプロジェクトの中東およびアフリカ地域におけるディレクターを務めているハレド・ハソナー氏は、「盗難の可能性は人々が考えている以上に深刻な問題ですが、その対策がよりいっそう困難であるとも限りません。盗難という問題にはさまざまな側面が存在し、また窃盗行為におよぶ理由も人それぞれであり、盗みの手口や転売の方法などについてもさまざまな手法が使われるはずです。このように複雑な問題に対処するには、複数の盗難防止策を組み合わせてことにおよぶ必要があるでしょう」と語っている。

 こうした問題について先のブリザード氏は、「盗難防止の最善策は、盗むだけの価値がないようにしておくことです。そうした方針でわたしどもは現在、学校の外に持ち出されて一定の期限が過ぎると使い物にならなくする方法を検討しています」と述べている。またこれらのラップトップを先進国でも低価格で流通させるようにしておき、グレイマーケットでの転売価値を低くするという考え方も成立するが、ブリザード氏によると、現状のOLPCとしてはそうした考えに乗り気ではないということだ。

 チャーリン氏は、ラップトップの仕様それ自体がグレイマーケットにおいてさほどの転売価値を見いだせないようにするだろうと指摘している。「盗み出したラップトップを転売する際に、それが合法的な品だと装うことはまずできないでしょう。盗品ラップトップを持ち込まれる売人の側としても、業務用マシンとしてさばけるとは思わないはずです。なにせこのマシンは、低速なプロセッサ、乏しいメモリ容量、小さな画面、おまけにハードディスクなしという、はなはだ魅力に欠ける構成なのですから。そこから何らかの拡張できるような設計にもなっていませんし。しかも売人の立場からすると、お客は盗品コンピュータを買わされても気にしない連中ばかりだという前提で商売をするしかなく、そうでなければ人目につかないよう隠しておくしかない訳ですから」

 『OLPC News』の執筆者であるジョン・カムフィールド氏の意見は、次のようなものである。「盗難や損失に対する真の意味での“解決法”などは存在しませんが、OLPCは経済および社会的な視点に注目することで、そうした問題を扱う上での適切な方針を執っています。OLPCというのは既に名の知られたブランドと化しつつありますし、セキュリティ的な観点から何らかの形態のメッシュネットワークへの接続を強制化しておくことも検討されており、これらの要素はいずれも転売しようという意欲をそぐ方向で寄与するはずです。最も盗難の危険性が完全に排除される訳ではありませんし、紛失時の代替品を提供できるように盗難保険的なシステムを整備しておくこともあり得るでしょう(そうした制度のせいでグレイマーケットやブラックマーケットでの闇取引が増えることもないはずです)。この種の扱いの難しい問題としては、かなり有効な対策が練られていると見るべきですね」

インターネットアクセスの問題

 子どもたちの手元にラップトップを配布するのは問題の1つの側面だけでしかなく、その機能を最大限に活用させるにはインターネットへのアクセス環境も整備しなければならない。国によっては最低限の電力供給さえままならない地域も存在し、そのような環境のまま仮にインターネット接続をできるようにしても、ラップトップのランニングコストが賄いきれないレベルに高騰するのは目に見えている。

 「この点については大きな疑問符が残されています」とカムフィールド氏は語る。「SES Globalがプロジェクトへの貢献を約束していますが、すべてを額面通りに受け取っていいかは疑問ですし、わたしとしては、10億もの子どもたちを相手にそんな低価格での回線開放をいつまで続けられるのだろうかと思っています。最もインターネット接続回線についてはかなりの実績がある企業ですから、その点は期待して良いかもしれません。しかし例え最低限のものであっても、第三世界の国々にインターネット回線を提供しようとすればとてつもない経費を食い続けるはずで、月間のダイヤルアップ接続料金に換算して平均20時間で56.31ドルという試算があるくらいです」

 ハソナー氏によると、OLPCはインターネット接続についてより低コストな代替策を模索しており、「現地に存在するスキルやツールやコンポーネントを最大限に活用し、現地の人間が継続的に使用し続けられる」インフラストラクチャを構築することも視野に入れている、とのことである。現地でどのようなリソースが使えるか次第だが、例えばWiMAXタイプの接続形態や学校と通信衛星を結ぶアドホックネットワーク、あるいは携帯電話経由の接続を利用することなども考えられる。

 チャーリン氏の説明するところでは、ワイヤレス接続こそは最も低コストな選択肢であり、そのほかの方法では10億ドル単位の予算が必要となるとのことだ。「既に光学ケーブルによる接続網はアフリカの西部および東部に構築されています。これらの敷設コストはそれぞれ10億ドル以上要していますが、数十カ国をカバーしているといっても利用者数にすれば高々数千万人程度に過ぎません。またアフリカの場合、銅線を芯とした通信ケーブルは、都市部や一部地域を除いて敷設するのは無理でしょう。スクラップとしての転売目的で盗まれてしまうからです。ポイント・ツー・ポイント形式のリンクは、1000ドル以下のコストで最大50マイルの区間を結ぶことができます。そしてローカルのワイヤレス接続ですが、村落単位で導入する場合は1カ所当たり数百ドルを要します。WiMAXの場合、経費は少しかさみますがカバーできる距離は何十キロ単位となるので、複数の都市間と周辺の村落群を結ぶことができます。VSATターミナルの価格は900ドルです。現行の衛星接続サービスに求められるコストは、アフリカ地区で使えるような価格帯ではありませんが、将来的に市場競争が進めばこれも値下がりするでしょう」

結局“実際のコスト”はどの程度なのか?

 OLPCプロジェクトの実施に要する“実際のコスト”を見積もるのであれば、盗難防止策にせよワイヤレス接続方式の採用にせよ、さまざまな要素を事前に検討しなければならない。カムフィールド氏の見解によると、現実的なコストをはじき出す最善の方法は、入念な実地試験をすることだということになる。既にネグロポンテ氏はカンボジアの農村において学童へのラップトップの配布を実行しており、折に触れてOLPCプロジェクトを推進するための成功事例として取り上げているが、このカンボジアでの経験を実地試験とみた場合の成果について語ることは拒否している

 「(OLPCの)ラップトップを配布するための予算見積もりは年間300億ドルに達していますが、この金額は2005年度における世界銀行の総貸付額やIntelの収益を上回っています」とカムフィールド氏は語る。「そして購入する側の国々は、いずれも他からの資金貸付を受けざるを得ないでしょう。パイロットプロジェクトによる成否の見込みを確かめることなく引き受けるには、大きすぎるリスクだといえます。確かにネグロポンテ氏が指摘するように、何らかの評価法を用いてOLPCプロジェクトが成功する可能性を数値化するのは無理かもしれません。それでも資金貸付を受けるという前提ならば、成功の可能性を見極める簡単な方法はあります。それは、OLPCラップトップを受け取ることで得られるであろう国家の経済的発展が、貸付金の返済額を上回るのかを検討することです。そうした評価をする上で、パイロットプロジェクトの実施というのは、妥当な選択肢の1つではないでしょうか?」

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