インタビュー
» 2007年01月15日 08時00分 公開

Open Source People:まつもとゆきひろ――第3回:僕の存在価値はそこにある (2/4)

[風穴 江,ITmedia]

オープンソースソフトウェアと「責任」

―― ビジネスが増えてくることで、Rubyの開発に対して、特定のビジネスのためだけに機能を追加するような要求が増えてきたりはしていませんか?

まつもと 僕もあるかなと思っていたのですが、意外にないですね。ビジネスとして何か必要なことは、Rubyよりも上位のレイヤで――例えば、ライブラリを作ったり、アプリケーションフレームワークに手を入れたり――対処できることが多いからでしょう。Rubyのところまで要求が「下りてくる」ということは、ほとんどないですね。たまに「もっと速くしてくれ」というような、「気持ちは分かります」的なことを言われるときはありますが(笑)。

―― まつもとさん自身が意識して、Rubyの開発の独立性を保とうとしている面もあるのでしょうか?

まつもと いや、あまりそういう意識はないですね。ほかの人の邪魔になりさえしなければ、特定の誰かのためにRubyが変化していくというのはアリだと思っています。仮に「見返りに何かしますから、こういう機能を……」という申し出があれば、僕はそういうことを抵抗なく受け入れるタイプなので(笑)、他人を邪魔しないという原則に反しない限りは対応したいと考えています。残念ながら、そういう話はまだ一度もないのですが。

―― RubyをNetNewsで最初に公開したときには、ある程度、使ってもらいたいという意図があったのですよね?

まつもと 使ってもらいたい……はい、そうです。

―― つまり、自分の趣味で作っているというよりは、もうちょっと、ほかの人にも使ってもらいたいという意識はあったわけですよね?

まつもと はい、(ほかのスクリプト言語と)同じぐらいにはちゃんと使い物になるものを、とは思っていました。

―― そのとき、ここまで本当に広く使われるようになると考えていましたか?

まつもと 全然考えていませんでした。プログラミング言語は、特にオープンソースのプログラミング言語はすでにたくさんあって、ほとんどものは、知っている人は知っているけど知らない人は全然知らないというレベルなのですが、そういうものの1つになるのかなと思っていました。

―― 最近は、海外でも広く使われるようになっていますし、Ruby on Railsによって仕事で使うという人もますます増えてきています。そうした状況の中で、まつもとさんが感じる責任、あるいは受けるプレッシャーというのは変わってきましたか?

まつもと うーん、たまに感じますけど、なるべく感じないようにしています。僕は変わらないぞ、と。

―― あえてそこには踏み込まないことにしている?

まつもと ときどき、社会的責任が……という人もいるのですが、「ふざけるなー」という感じで無視することにしています(笑)。

―― ただ、作っている本人は、あまり意識したくないと思いつつも、ある瞬間から周囲が勝手に何かを期待しちゃうという、ことはありますよね。

まつもと 期待する人は、期待するだけのコストを負担しているか、という話になるでしょうね。そのコストを負担する気があるなら、負担されたコストを使って、その責任を果たすプレーヤーが出てくると思うんですよね。

 期待されているからということで、僕が無償で何もかもやってしまうことはできないし、仮にやれても、その僕がつぶれたらうれしくない人も多いでしょう。少なくとも僕はうれしくない。逆に、それそのものがビジネスチャンスじゃないですか。実際、Linuxなどはそうなんですよね。Linuxディストリビューションを作る企業が、そのリスクを取って、ビジネスにしているわけで。Rubyにおいてそういうチャンスを奪わないためにも、僕はむしろ、期待に応えない、話も分からない人でいた方がいいんじゃないか、と思っています。

―― わたしもまったくその通りだと思うのですが、なかなか理解できない、してくれない人もいますよね。

まつもと それはしょうがないですよね。最初からすべて分かるのは無理なので、そういう人が出てきたときには、根気よく「Rubyは無保証ですから、保証がほしければ必要なプレーヤーにお金を払ってくださいと言い続けるしかない。そういうプレーヤーがいなければ、あきらめるか、そういうものを作ることを考えてみたらと突き放していこうかなと、いつも思っています。理解してくれない人が出てくることはしょうがない。これからも何回も何回も出てくるでしょう。それに対しては、繰り返し同じように対応していこうと思っています。

―― そういう意味では、Rubyも、Linuxカーネルのように、開発リリースとは別に、Rubyの「ディストリビューション」を作る人が出てくるといいいのかもしれませんね。

まつもと ええ、あってもいいと思います。海外では、例えば、ワンクリックインストーラーという形で出している人がいますし、わたしたちの会社(ネットワーク応用通信研究所)が「Rails Platform」という名前で有償のパッケージを出したことにも、そういう意図があります。こういうビジネスが軌道に乗っていけば、Linuxディストリビューションの会社がやったのと同じような立場になっていけるかもしれないと思います。不幸なことに、今はまだそこまでいってませんが。まだ最初の一歩ですよ。

―― まつもとさんとしても、もしなるのであれば、そういうふうになった方が良いと。

まつもと とにかく、僕個人がやるのは嫌なんですよ。抱え込むことになるから。例えばうちの会社なりが、お金を取るからやりますという話になるなら、それは大賛成です。別にうちの会社じゃなくてもいい。どこかの誰かが、わたしたちはビジネスでそれをやります、というふうになるといいですよね。そのとき、何か手伝ってくださいという話になれば、協力は惜しまないですよ。でも、僕自身はやらない。

―― Linuxカーネルの場合、開発しているソースコードのツリーも単一ではなく、リーナスのツリー、アンドリュー・モートンのツリーなどというように、たくさんのツリーが並列していて、そのためにわざわざ、そういうことができるソースコード管理ツールを自作してまでして使っています。今後、Rubyをそういう体制にするという考えはありますか?

まつもと うーん、そこまでしようとは思わないですね。僕からは積極的にはそうしないけど、そうしたいという人がいたら、つまり、僕のソースコードツリーから吸い出して、別のツリーを作ろうとやってくる人がいれば、相談には乗ろうと思っています。

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