コスト削減だけじゃない――IP電話がもたらす意外な「効果」

IP電話の導入は、コスト削減や効率向上などを目的に進められることが多い。しかし日本アバイアによると、同時にリスク分散と事業継続といった効果ももたらされるという。

» 2007年01月26日 10時00分 公開
[高橋睦美,ITmedia]

 「IP電話はリスクの分散につながる。IP電話の導入によって、ディザスタリカバリの面からも優れた仕組みを作ることができる」――日本アバイアの戦略担当取締役、安藤靖氏は、IP電話が事業継続に果たす役割についてこのように述べた。

 安藤氏によると、IP電話の「堅牢さ」に注目が集まることになったきっかけは、2001年9月に発生した米国同時多発テロ事件だった。当時、いわゆる電話網は事件の影響で切断され、携帯電話網もパンク状態に陥った。残された手段がIP網/ソフトフォン経由の接続であり、これにより情報収集や事業の継続を実現できた企業は少なくなかったという。いざというときにリスクを回避する代替手段としてIPが有効だという教訓は、今の日本社会にも適用できると安藤氏は述べる。

 企業におけるIP電話の導入は、2002〜2003年ごろから、コスト削減や業務効率の向上、売り上げ拡大といった効果を狙って進められてきた。IP電話はもちろん、こうした所期の目的にかなうものだが、副次的な効果として災害対策/事業継続といったメリットももたらすという。

 例えば、通販会社などでは、電話がビジネスの生命線になっている。「こうした企業では、1本1本の電話がそのまま売り上げを左右する。つまり、電話はその企業にとって非常にクリティカルなシステムだ」(安藤氏)。こうした企業ではここ数年、コスト削減や効率化を目的にコールセンターのIP化を進めてきた。これにより、オペレーションの分散化と管理の集中化が実現できたが、これはそのまま、リスクの分散と事業継続性の強化につながっているという。

日本アバイアの戦略担当取締役、安藤靖氏は、当初はコスト削減などを第一の目的に導入されることが多いIP電話は、同時にリスク分散と事業継続に有効だと述べた

 1つの例は、強風で電車が止まり、都内のコールセンターへ担当者が出勤できなくなったような場合だ。このときは、問い合わせを大阪などほかの拠点に振り分けることで、オペレーションを継続できた。このように、大規模な災害とまでいかなくとも、「日常の天災や人災に備えていれば、大きなことにも対応できる」と安藤氏は述べる。

 ただ、単純に分散化するだけでは、ウイルスや情報漏えいをはじめとするさまざまなリスクを招く恐れがあるのも事実だ。「ディザスタリカバリ」を講じたつもりが新たなディザスタを招かぬよう、さまざまなシナリオを考え、きっちり設計していくことが重要だと同氏は指摘した。事実、金融機関などでは、あらかじめさまざまな事態を想定し、必要に応じてセキュリティ対策などを施しているという。

 「ディザスタリカバリとはリスクを分散させることだが、それにともない『外気』と触れる部分も増える。セキュリティをきっちり確保することで二次災害を防ぐことが重要だ」(安藤氏)

 IP電話の信頼性という意味では、キャリアが提供するIP電話サービスのトラブルが話題になったこともあり、不安を抱くユーザーも多い。しかし、これはあくまで「過渡期」の問題だろうと安藤氏は述べ、数年掛けて技術がこなれていけば自ずと解決できるだろうとした。

 また、システムの側でも、信頼性向上のためにさまざまな対策が可能だ。日本アバイアの場合も、ハードウェア障害に備えたサーバ/スイッチの二重化、通話状態の継続的なチェックといった仕組みを提供。またネットワークの設計においても、アクセスコントロールによるプライベート/パブリック網の分離や経路の暗号化といった方策を施している。さらに、WAN回線の障害に備え、自律的に設定を変更し、独立したエリアで通話を継続できる機能もサポートした。

 海外では、日本ではキャリアが提供している災害伝言ダイヤルサービスのような仕組みを企業単位で導入しているケースもあるという。音声応答、音声認識などの技術を組み合わせ、災害発生時に一斉同報し、レスポンスを集約する仕組みで、今後は「社員へのコミットとして、こうした最低限のインフラを準備しておくのもいいのではないか」と安藤氏は述べている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ