LPICレベル3の登場で変動する認定資格事情

LPICの最上位資格となるLPICレベル3がいよいよスタートした。この資格の意義について話すLPI-Japanの成井弦理事長の言葉からは、世界で戦っていくことが求められる技術者に必須の要素が幾つか浮かび上がってきた。

» 2007年02月22日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 近年、メインフレームからLinuxシステムへの移行といった話だけではなく、組み込み分野などLinux/OSSの適用はあらゆるシーンで見られる。これは、Linux技術者に対するニーズが年々増加傾向にあることを意味している。

 現在、国内のLinux技術者の需要と供給のバランスを考えると、明らかに需要が上回っている。その要因としては、IBM、富士通、NEC、日立といったメインフレーマーが軒並みLinuxへの移行を打ち出す中、IBMを除く3社が日本のベンダーであること、組み込みやロボットといった日本が得意とされる分野でLinuxの適用が進んでいることなどが挙げられる。

 苛烈な競争下にあるITプロフェッショナルの人材市場だが、上記のような状況のため、Linux/OSSに関する知識を持った人材のニーズは高い。こうした人材の評価指標となるLinux/OSS関連の認証資格として、今、LPIC(Linux Professional Institute Certification)に熱い視線が注がれている。

 CertMagという米国の資格専門誌が2005年に行った調査では、LPIC保持者の平均給与は8万1940ドル(約950万円)で、RHCTやRHCEといったLinuxディストリビューターが認定する資格保持者の給与に比べ高い(RHCTは7万7750ドル、RHCEは7万7470ドル)。もっとも、CertMagの最新の調査では、RHCT/RHCEはほぼ横ばいであるのに対し、LPICは1万ドル近く下がり7万1790ドルとなっているが、いずれにせよ、Linux/OSS関連の認証資格の有用性に疑問の余地はない。

 LPICは、特定非営利活動法人/Linux技術者認定機関「LPI」(Linux Professional Institute)の実施するLinux技術者認定試験。日本では2000年11月に開始されて以降、2003年8月に1万人、2006年7月には6万人、そしてこの2月に7万人の受験者総数をそれぞれ達成した。@IT自分戦略研究所で実施した読者調査で、今後取得を目指す資格として首位となったのもこうした状況とあながち無関係でもない。

LPI-Japanの成井弦理事長

 LPI-Japanで理事長を務める成井弦氏は、「国内にある資格試験で伸びているのはLPICとPMP(Project Management Professional)の2つではないか」と話す。

 「Linuxディストリビューターが実施している試験、例えばRed Hatが実施するRHCEなどの認定試験とLPICの違いは、前者がそのディストリビューションをサポートする技術者を育成することに主眼を置いたものであるのに対し、LPICはいわばセンター試験である点ではないか。どちらがよいのかといった議論はあまり意味がないが、LPICが伸びているのは中立性が支持されたためではないか」

とうとう登場のLPICレベル3

 これまでLPICはレベル1とレベル2というレベルの異なる2種類の試験が用意されていたが、この1月には最上位資格となるレベル3試験がいよいよスタートした(関連記事参照)。レベル3試験では基本試験である「Core」と、専門試験「Speciality」で構成される。つまり、「Core」をベースとし、さまざまな専門分野に分かれた「Specialty」に対応する試験が用意されるイメージだ。

 このレベル3試験登場の背景には、エンタープライズというフレームの中でシステムインテグレーターができるハイレベルな技術者を育成したいという企業の思いと、現状のLPICの認定者傾向の問題点が見え隠れする。

 現在、日本国内におけるレベル2試験の認定者(約4000人)は、レベル1試験の認定者(約1万9000人)の4分の1にも満たない。つまり、認定者の多くが、レベル1にとどまっているわけだ。しかし、レベル2試験であっても、システム全体を見通せるスキルを想定したものではない。このため、システム全体を見通せるスキルを想定したレベル3試験を新設することで、企業のニーズも満たしつつ、認定者の分布を上に引き上げようとしているのだ。

レベル1、レベル2ともに認定者の数は順調に伸びているが、レベル3試験の開始により、レベル1認定者がレベル2試験に挑戦することが期待される

 このレベル3試験のうち、「Core」を認定する「LPIC Level3 301 Core Exam」では、LDAPが特に重視されている。全体の8割近くがLDAP関連で、OpenLDAPに関する実用的な知識と、各種ソフトウェアとの連携が問われる。残りはキャパシティプランニングだ。

 一方「Speciality」については今後、分野ごとの試験が登場する予定だが、当面は混在環境におけるSMB/CIFS、ファイル共有、プリントサービスなどに関する「LPIC Level3 302 Mixed Environment Exam」のみが提供される。ちなみに、レベル1やレベル2のように2種類の試験に合格しなければ認定されないのとは異なり、Coreに合格した段階でレベル3に認定される。

 いずれにせよ、レベル2試験までではほとんど問われることがなかった、システム統合やキャパシティプランニングなど、システム全体を見通せるスキルを想定した試験となっている。実務とかけ離れた内容になることなく、かつ、小手先の試験対策だけでは合格できない試験を完成できた背景には、グローバルで行われたβ試験のフィードバックが大きく寄与している。

OSSの世界に入るよきドアとして

 結局のところ、今後のわたしたちに求められるのは世界を見据えた「技術力の蓄積」や意識であり、技術力を自己の中に蓄積した場合にのみ認定資格が有効に機能するのは言うまでもない。その一方で運営母体たるLPIの不断の努力によって、認定試験が認定試験として認知されていく必要があるが、そのための取り組みも抜かりがない。レベル3試験の開始とときを同じくして実施された有意性の期限(再認定ポリシー)の変更や、ブレインダンプ(認定試験をむしばむブレインダンプについてはこちらの記事が詳しい)への対策となる既存試験の出題対象の見直しなどがそれにあたる。

 「認定試験が認定試験としての意義を成してないのなら、支持は得られない。認定試験そのものの有効性を保つためには、しっかりした運営、つまりマネジメント体制が必要」と成井氏は話す。過去数度米国にLPI-USAを設立したLPIだが、技術畑のスタッフばかりをそろえたがために、啓もうのためのマーケティング面での弱さを感じさせ、米国でのLPICのブランディングが遅れてしまったことなどをふまえての発言だ。こうした思いもあり、LPI-Japanでは理事会のメンバーに経営感覚に優れた方々を招請しているわけだが、このことが結果としてLPI-Japanの安定した運営と、日本におけるLPICのブランディングに大きく寄与している。

 レベル3試験の実施で中心的な役割を果たしたLPI-Japan。その理事長の成井氏は、かつてDECや日本シリコングラフィックス(現日本SGI)など、国内外の企業で腕をふるってきた歴戦の猛者だ。同氏は今、どういったビジョンでLPI-Japanに携わっているのだろうか。成井氏は「日本のIT技術者のスキルアップを図りたい」と簡潔に答えた後、次のように話す。

 「歴史上の経緯でUNIXが商用の『閉じた』OSとなっていった中、日本の教育というのは、コンピュータサイエンスとは言えども、ことOSについては教育してこなかったのではないか。中身が分からないOSの上で動くアプリケーションは理解していても、ハードウェアに近い部分の知識は乏しい。その意味で、LinuxのようにOSの中身が分かるものへの知識を持つことは、日本のIT技術者のスキルアップにつながると考えるし、ひいては、世界で戦える武器になると思う」

 加えて、グローバル化とオープン化の波が新しいパラダイムを生み出している中、コントリビューションに対する重要性の認識、およびそうした価値観を持つことが重要であると付け加える。

 「日本企業では、会議をしたときに何も発言しない人は多々います。しかし米国企業ではそれはあり得ない。黙っているというのは会議に貢献していないわけで、次は呼ばれないのだから。Linux/OSSの世界では、貢献というものが重要な要素として挙げられる。LPIは試験を通じて技術力を認定しているが、OSSの世界に入るいいドアではないかと思う」

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