導入は海外が先行――モスクワのBBサービスを支える高速PLC「エンタープライズPLC」のススメ(1/3 ページ)

国内では始まったばかりのビル内PLCだが、海外での導入事例は珍しくない。ここではビル、工場内などの企業向け高速PLCにフォーカスして、ロシアでの実用例を紹介する。

» 2007年02月23日 08時00分 公開
[徳丸亀鶴、弘津研一、野口佳典,ITmedia]

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徳丸亀鶴/弘津研一/野口佳典(住友電気工業PLC開発部)




 PLC(高速電力線通信)は、2002年ごろより米国、欧州で実用化された技術であり、高圧配電線上に適用したインターネットアクセス網、宅内電力線に適用したホームネットワークがすでに海外では実用化されている。

 2006年10月に国内でも屋内でのPLCの利用が認められ、既に各社より製品が出荷されている。PLCは既設の電力線を利用することにより、通信ケーブルを敷設することなく宅内およびビル、工場内などで通信ネットワークを簡便に構築できるため、さまざまなアプリケーションが期待されている。ここでは、ビル、工場などの企業向けのPLCに焦点を当て、海外での構築事例を紹介しながら国内での可能性を考えてみたい。

ビル内へのPLCの適用

 ビル内でLANを構築する場合、通常は光ファイバケーブルやUTPケーブルをEPS(設備専用室)の中で最下階から最上階まで敷設し、各フロアにレイヤ2スイッチを設置して、そこから各部屋にUTPケーブルを敷設する(図1)。しかし、PLCシステムはそのような途中のケーブル敷設が不要になる。具体的な構成例を以下に示そう。

図1 図1●通常のUTPケーブル(イーサネット)システムの場合

 ビル内でPLCシステムを構築する際は、その規模や要求されるパフォーマンスによって構成を変える必要がある。具体的には、中継機能を使用するかどうかで変わってくるということだ。

 中継機能を用いたシステムは通常、主にオフイスビル内やホテルなど多くの端末(100台以上)が接続する場合や、端末までの信号速度が要求される場合に適用される(図2)。

図2 図2●中継機能(リピータ)を用いたシステムの場合

 システムの構築方法は、対象となる建物の電気配線の基になるメイン分電盤がある所にヘッドエンド(HeadEnd:親機)を設置して、PLC信号を注入するケーブルをメイン分電盤の空きブレーカーに接続する。空きブレーカーがない場合は、ブレーカーを新たに追加するか、あるいはインダクティブカプラを用いて電磁誘導によって注入する(半割れのフェライトコアをケーブルに装着し、一次巻線を通して信号を注入する)方法がある。その場合、直接注入する方式に比べて注入損失が大きいので、システムを組む際に注意が必要だ。

 注入されたPLC信号は、電線を通じてメイン分電盤から各階の分電盤に伝送され、そこでさらに各部屋へ信号が分けられて部屋のコンセントまで伝わっていく。だが、途中分岐や伝送距離などにより信号強度が減衰し、通信速度が低くなったり接続できなくなる場合がある。そのようなときは、各階の分電盤の所にPLC信号を中継するリピータを設置し、同じく分電盤内の空きブレーカーに接続する。こうすると、低速だったり接続不可能だった個所が改善されて普通に利用できるようになる。

 一方、中継機能を用いないシステムは、主に小規模集合住宅や低層階ビル内など接続する端末が数十台程度の場合に適用される(図3)。ビル内のメイン分電盤にヘッドエンドを設置してPLC信号を注入すれば、各部屋ではモデムをコンセントに差すだけで利用可能になるという、一番簡単な構成である。しかし、一部つながらない個所があるようなビルでは、各フロアの分電盤にリピータを設置して改善する必要がある。

図3 図3●中継機能(リピータ)を用いないシステムの場合

 なお、1つのヘッドエンドに接続されるすべてのPLC機器の速度は、PLCモデムの数に応じて時分割されていく。つまり、接続するモデムの数が増えるほど個々の速度は低下していくので、可能ならば電気系統でPLCネットワークを分けるといった工夫も欲しい。

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