与えるべきか否か:FOSSにおける報酬のトレードオフ(1/2 ページ)

FOSSのプロジェクトへの参加への対価として報酬を与えることは、そのプロジェクトを衰退させてしまうのだろうか。Debianコミュニティー内部で起こったDunc-Tankプロジェクトに反対する動きからこの問題を考える。

» 2007年03月12日 11時53分 公開
[Bruce-Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 フリーおよびオープンソースソフトウェア(FOSS)プロジェクトが開発者のための報酬制度を導入しようとするとき、いったい何が起こるのだろうか。いまなおFOSSは概して有志の活動に基づいているため、そうした制度によって報酬を受け取る者とそうでない者の双方の意欲が低下する可能性が大いに憂慮される。

 しかし、報酬の仕組みとFOSSの精神が相互にどのような影響を与え合うかに注目するコミュニティーの主導者たちによれば、状況はもっと複雑だという。こうした専門家たちは、報奨金、現物支給、助成金、仕事の提供という主要な4つの報酬形態を明確に区別し、実際に何が起こるかはこれらの報酬形態と関与する個人に依存すると述べている。

 もちろん、報酬制度はFOSSコミュニティーにとっても目新しいものではない。IBM、Novell、Red Hat、Sun Microsystemsといった企業では、何年も前からFOSSに取り組みむ開発者を雇っている。しかし、FOSSにおける報酬制度が最近改めて注目されているのは、Debianコミュニティー内部でDunc-Tankプロジェクトへの反対の動きがあったためである。Debianの次期リリースの開発を急ぐために2人のDebianリリースマネジャーにそれぞれ1カ月分の報酬の支払いを提案したことで、Dunc-TankはFOSS業界で大きな話題を呼んだ。激しい議論、パロディサイトの登場、Debianプロジェクトリーダー、アンソニー・タウンズ氏に対する罷免決議案の提起(この決議案は結局は否決された。ちなみにタウンズ氏はDunc-Tankのメンバーでもある)など、さまざまな反対の動きがあったにもかかわらず、この報酬制度の案は成立に向けて前進を見せた。

 DebianコミュニティーとDunc-Tankとの議論はまだ続いており、それぞれの側の主張は、より広範囲におよぶFOSSコミュニティーにとっても、興味深い内容といえる。Dunc-Tankの支持者にとって、この問題は単純明快である。過剰にならない範囲で妥当な額の報酬を提供すれば、Debianコミュニティーの選ばれたメンバーたちは自らのFOSS活動にフルタイムで専念できるというわけだ。しかし、Dunc-Tankの反対者には、こうした報酬が不平等なものに思える。例えば、Debian開発者ジョーイ・シュルツ氏は、Dunc-Tankによって「多くの関係者の意欲が奪われた」という。また、報酬の支払いによって「自己決断および自発性の意識」を有志たちが失い、その結果「ほかの人々の力になりたいから、あるいは楽しいから」という理由では参加しなくなる点を示唆しているように見える、GNOMEのルイ・ビラ氏による理論的な調査結果に言及するDebian開発者もいる。

 確かにこの議論は注目を浴びたが、問題は、現実指向の組織であるにもかかわらずDunc-Tankの目標があいまいなため、支持と反対のどちら側に関する議論も理論的になりがちなことだ。一方、FOSSプロジェクトにおける報酬をもっと広い視野から検討する人々は、この問題をもっと複雑で状況依存性の高いものととらえている。

報奨金

 最もよく話題に上る報酬形態の1つが報奨金(bounty)、つまり特定のプログラミング作業に対して支払われる金銭的報酬である。ほとんどの場合、規模が小さくて内容が明確な作業に対する報奨金の相場は、わずか数百ドル程度でしかない。

 Linux.comが話を聞いたプロジェクトのリーダーたちは、皆一様に報奨金について強く警戒を促していた。報奨金に反対する明快な根拠を示した者こそいなかったが、注意が必要なことは全員が経験的に学んでいた。だいたいにおいて、彼らの主張はDunc-Tankの反対派による意見と同じだった。Mozilla Foundationの常任理事フランク・ヘッカー氏は、ボランティア精神に真っ向から反するものでありながら人々を動機づけるほどの金額でないことが報奨金の問題だと示唆する。特に、何らかの開発の見返りとして金銭を受け取る場合は、その開発行為が「自発的な活動ではなく、単なる仕事になってしまう」とヘッカー氏は言う。要するに、熱中や没頭の感覚から何かを生みだす趣味ではなく義務になってしまう危険があるわけだ。

 Fedora Boardの議長マックス・スペバック氏もこうした考えに同意し、「プロジェクトの自己完結した一部分だけを取り上げてその価値を決めることには何やら嫌悪感を覚える」と付け加えている。多くの場合、そうするには責任者の判断が必要になるが、このことによってもプロジェクトの開発活動がごく普通の会社の業務のようになってしまう。

 そうした理由から、ヘッカー氏はあらゆる形の報酬の中でも「報奨金の支払いは最も成功の見込みが薄い」と主張する。

 このヘッカー氏の結論は、Democracy Playerの開発者によってごく短い期間だけ運営されていた今は亡きBounty Countryサイトの事例によっても裏付けられているように見える。各プロジェクトが報奨金を支払うことができるサイトとして企画されたBounty Countryには、ほとんど投稿が集まらなかった。Democracy Playerそのものは辛くも報奨金で成功した一例を築き上げたが、その他幾つかの活動は決して完遂されなかった。Democracy Playerの開発者ニコラス・レベル氏には、ニュースサイトの一部または特定のプロジェクトの範囲内であればこのサイトはもっと成功していたかもしれない、と語る。だが、こうした取り組みがあまり成功していないのは、ほかも同じだ。

 関連はあるもののそれほど知られていない報酬形態として、開発者が自分のやりたい仕事に対してスポンサーを探し出すという逆報奨金(anti-bounty)がある。Drupalコミュニティーで少なくとも1件の逆報奨金を成立させたBryghtのボリス・マン氏によると、逆報奨金では、通常の報奨金に伴う多くの問題を回避できるという。逆報奨金の投稿は開発者によって行われるため、対象範囲、要件、費用がより現実的なものになる傾向がある、とマン氏は語る。もっと重要な点として、開発者は自らが逆報奨金に関する投稿を行ったプロジェクトにすでに関心を寄せているため、報奨金の存在によってプロジェクト内の意欲や士気が下がる恐れはあまりなく、プロジェクトの完了に際して通常の報奨金よりも高い額が得られることが多いことをマン氏は挙げている。しかし、この制度は、はっきりとした結論を導けるほどには広まっていないようだ。

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