知られざる「ハッカー」の生態や心理についてまつもとゆきひろ氏が紹介する人気連載がITmediaに登場。ハッカーの生き方を知ることは、あなたがより良いプログラマーになるのに役立つかもしれません。もちろん保証はできませんが。
こんにちは、はじめまして。まつもとゆきひろと申します。世間ではRubyというプログラミング言語の作者として知られ、職業はプログラマーで自称ハッカーでもあります。この連載ではわたしたち「ハッカー」の生態や心理について紹介できればと考えています。
「ハッカー」といってもネットワーク経由でシステム侵入を行ったり、パスワードを破ったりするような悪者ではありません。そういえば、最近そういう誤用をあまり耳にしなくなりましたね。
ハッカー(Hacker)とは文字どおり「Hackする人」という意味です。「Hack」というのはもともとは「(斧などで)たたき切る」という意味ですが、転じて「(プログラムなどを)でっちあげる」というような意味で使われています。「でっちあげる」というとずさんな仕事に思えるかもしれませんが、実際には「素早い仕事」というニュアンスで、素晴らしくできの良いものも「ハック」ですし、その場限りの間に合わせのような仕事もやっぱり「ハック」です。そんな仕事を好むハッカーは、要するにコンピュータ(あるいはプログラムできるものすべて)にのめり込むようなタイプです。
ハッカーたち自身がまとめた用語集である「jargon file」では、ハッカーをリスト1のように定義しています。長いでしょう? それだけ「Hacker」という単語にこだわりを持っていることがうかがえます。
ハッカーはほかの人から見て、一見不可能だと思えるようなことを現実にしてしまうことがあります。プログラミングの知識がない人、経験の浅い人からは魔法使いのように見えることもあります。「好きなことにのめり込んでいる」という意味では幸せそうですが、富とか資産とかいう単語とは無縁の人が多いようです。しかし、世の中には例外的に自分の才能を上手にお金に変える手段を見いだしているハッカーもいます。
システム侵入をするような悪い人がハッカーと呼ばれたのは、それがかつて「創造的な知的チャレンジ」であり、そのようなことを行うハッカーが存在したからです。
たいていのハッカーは、世間一般と倫理観に少々ずれがあります。ときには法律を順守することや「良い社会人」であることよりも、知的好奇心を満たすことの方が大切だと考える気持ちは分からないでもありません。 ですが、ハッカーであることと、悪人であることとはまったくの独立です。いや、むしろ、仮に本物のハッカーがシステム侵入を行ったとしても、その動機はおそらく「やってみたかったから」、「できることを証明したかった」であって、「利益を得たい」というような犯罪的な動機ではないだろうと思います。ハッカーにはお金のような物質的欲求の低い人が多いのです。
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